第5話 ~不惜身命~

「じゃまするぜぃ。」


「ん?テツ、てっちゃん・・・。」


入って来たのは小沢徹、通称テツ、俺と同い年で駆け出しの

いわゆるチンピラやくざで、ちょくちょく一緒に飲み歩いたりした仲だ。


背も小さく、けんかも弱いくせに酔うとすぐ因縁付けて喧嘩する。

俺はいっつも、巻き添えを食らってた。

だが、なぜか?憎めない奴だ!

(邪魔するぜって、いつの時代だよ)


「おやっさん、しんの奴、生きてます」

テツの後に入って来たのは・・・。


次郎さんだ!

「生きてるから、病院にいるんだろが」

(相変わらず渋い声で、すごく重みを感じる声だ)


この人は鶴山会の若頭で、鬼塚総業の組長だ。


「あんた・・?あ、次郎さん、なんで?」

志保さんが口を開いた。


「ねぇさん・・」って言ったテツがとっさに口を塞いだ。


「志保?なんでお前がここに・・・。」

次郎さんが話しかける。


「なんでって、しんちゃんは下の店のボーイやし・・・。」

「前から知り合いやから、見舞に来たん・・・ですよ」


「そ、そうか。」

俺は“ピン”っときた。

(志保さんは次郎さんの女だ)


俺はこういう事には鼻が利くし勘も働く、

うちの店のオーナーはチーママとデキてると思ってる?

チーママはママの妹なのに・・・。


「次郎さんこそ、何で?しんちゃん知ってるん・・ですか?」

(もういいって、そのわざとらしい話し方は)


「シンザ、心三朗とはちょっとな・・・。」


「あ、そうなん・・・?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「舞ちゃん、私らちょっと出よか?」

「売店にでも行こうや」

(志保さんはさすがに鋭い・・・。)


何かを感じ取って舞も連れ出してくれた。

舞は心配そうな顔をして、志保さんに手を引かれて出て行った。


次郎さんはソファーに座りゆっくりと話し出した。

俺はというと、次郎さんが着たとたんからベッドに正座してる。


「実はな、シンザ、茂貞が跳んだ」

(やっぱり・・・。)


次郎さんは俺が何か知らないか?

ここに来なかったか?

手がかりは無いか・・・と、ここに来たらしい。


次郎さんは筋違いなことで追い込む人じゃないから

俺に詰め寄ることはしない。


その時、俺は思い出した。

(次郎さんだ、俺に“覚悟”を話したのは)


俺は茂貞先輩に一緒にやくざにならないか?って誘われたことがある。


そんなとき次郎さんは

(「心三朗、やめとけこっちの世界にはな、

“馬鹿でなれず、利口でなれず、中途半端じゃなおなれず”って

言われる言葉がある。


それでも、そんなもの取っ払ってでもなろうとする奴はその“覚悟”がある。

心三朗はこっちの世界じゃないところでその“覚悟”を見つけろ!

で、ないと・・・。(なぁ、ねえちゃん・・・。)


“覚悟”は次郎さんから聞いた言葉だ。

次郎さんは茂貞先輩が本部(鶴山会)の金を盗んで逃げたと。


先輩は正式な組員にはなってないが、

事務所の留守番や、競馬のノミ行為の電話番に

運転手やらと頻繁に出入りしてた。


叔父さん(貞次)はまだ知らないらしい。

叔父さんはもう結構な歳だがやはり引退したとはいえ

流石の漂う雰囲気がある人で、


ぷらぷら遊んでた俺に・・・。


(「心三朗、早く“根”を張るところを見つけろよ。

仕事でもいい、住む場所でもいい、女でもいい。

自分はこれで生きていくんだという“覚悟の根”を・・・。」)


そんな言葉をかけてくれた叔父さんだ。


その時は何のことかわからず、ただ、うなずくだけだったが・・・。


昔、鶴山の会長さんは、茂貞先輩の死んだ父親(貞一)が

盾となり命を救われた事件があったそうだ。


先輩は命の恩人の息子ってことになる・・・。だが・・・。


他の組員たちに対して”示しがつかない”からと頭を抱えてるそうだ。


本部の人たちもまだ知らされてなく、

次郎さん所の若い衆だけが内密に動いて捜してると・・・。

(いつまでもこんなこと隠し通せる訳はないな・・・。)


「次郎さん、二人っきりで話がしたいんですが・・・。」

俺は次郎さんに生唾を二回、呑み込んでから言った。



次郎さんがテツに軽く目で合図をしたので

テツは頭を下げ病室を出た。


「幾ら?持ち逃げしたんですか?先輩は・・・。」


「5束(ソク)、500万だ」

[※今の紙幣価値に換算するなら1.5倍から2倍で1000万位に値します]

(そんな、大金を・・・。)


「幾ら叔父貴(貞次)でも、すぐすぐにはそんな金、無理だ」

「かといって、いつまでも隠し通す訳にもいかない」

(次郎さんは腕組みをして目を閉じ考え込んでる・・・。)

・・

・・・

・・・・

・・・・・。

(…決めた)


俺はベッドから下り、サイドテーブルの引き出しからケースを出した。


半分の500万を手に取り次郎さんの前に置いた。

(半分は舞のだからな)


「次郎さん、これで先輩、茂貞先輩を許してやってくれませんか?」

「捜すのを止めてくれませんか?お願いします」

俺は深々と次郎さんに頭を下げてお願いした。

右脇の痛みと緊張で変な汗が流れた・・・。


「シンザ、この金は・・・?」

俺は犯人の親からの慰謝料と示談金だと告げた。

(次郎:黒田の社長からか、

シンザが真人さんの息子って・・・。知る訳ないか?)


「そんな金、受け取れるわけがないだろ♯」


「お前、死にかけたんだぞ♯」


「その、代償だろうが♯」


「いいんです。」


「これで・・なんとか先輩たちを捜すのを追うのを止めてください」

「許してやってください!」

俺は必死だった。



「シンザ、あいつにそこまでしてやる義理があるのか?」

(ビビる、さすがの次郎さんだ口調は静かでも・・・。重みが違う。)


俺は、そこまでの義理があるとか?

無いとかはわかんないが

(楽しかった、ろくな遊びはしてこなかったけど・・・。)


気が合って、優しく可愛がってくれた先輩は初めてだったし、

叔父さんも会うたびに小遣いくれたり、

旨いもんも沢山食わせてくれたから・・と

そんな想いを次郎さんに涙目で話した。


次郎さんも会長さんも腹の中も、

頭の中も色んな葛藤が交錯してるに違いない

そんな気がしてた。


「いいのか?シンザ、それで・・・。おまえは?」


「はい。お願いします」

再び頭を下げた。


次郎さんは目を閉じ暫くして、テツを呼んだ。

テツはドアの向こうで聞いてたんだろう?

鼻水と涙を流しクシャクシャの顔で入って来た。


「テツ、あいつらに連絡しろ!」


「もう捜さなくていい、帰ってこいって・・・。」

テツは鼻水をすすりながら急ぎ出て行った。


これで本当にいいのか?はわからんが・・・。

叔父貴の耳に入るまでに終わらせるには・・・。と

次郎さんは“覚悟”したと話した。


少し話した後、次郎さんは胸ポケットからワニ革の財布をだし

そのままベッドの上に投げた。


「シンザ、俺からの見舞金だ、収めろ」


俺は声が出なかった・・・いや出すわけにはいかないと思った。

頭を下げる事しかできなかった。


次郎さんは帰り際に、もう捜したり追い詰めたりはしないから

ただ、偶然見かけたら一発だけ、殴らせろ!


「左手でな。」


そう言って左こぶしを軽く挙げて部屋を出て行った・・・。

(舞になんて話そう・・・・・・・?)


暫くして舞がひとりで帰って来た。

志保さんはお店の準備があるからと、帰ったらしい・・・。

(次郎さんとだな?)


「・・・。話、付いたの?しんちゃん?」


「役に立ってよかったね、あのお金・・・。」

(なんにも言えねぇ、すべて聞いたんだな志保さんたちから・・・。)

(ますます惚れちまうじゃねぇか~~)


下半身に血流が集まってくるのを俺は感じた。


「こら!こら~~まだお昼だよ。」

ポンポンって・・・。

(やっぱり、コメディ?これ?)


次号、待ち受けるのは・・・。

第6話 ~多事多難~

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