第二十章 最終決戦、その前に

中央平原の戦いから、一週間が経った。


 戦争は、正式に終結した。


 四王国同盟と魔王軍は、和平条約に調印した。郵便局が仲介し、両者の代表が署名した歴史的な文書だった。


「信じられない」


 シルフィアが呟いた。


「本当に、終わったんですね」


「ああ。終わった」


 正配は窓の外を見た。


 郵便局の周囲には、以前にも増して多くの人々が集まっていた。人間も、魔族も、エルフも、ドワーフも、獣人も。


 皆、手紙を持っている。


 家族への手紙。友人への手紙。恋人への手紙。


 戦争が終わり、届けたい想いが、一気に溢れ出していた。


「忙しくなるな」


「はい。でも、いい忙しさです」


 シルフィアは笑った。


「これが、私たちの仕事ですから」


   *


 だが、問題も残っていた。


 戦争継続派の残党が、各地に潜伏している。彼らは、和平を認めず、抵抗を続けていた。


「テロ行為が増えています」


 ダルクが報告した。


「郵便ルートへの妨害、中継点への放火。先週だけで、十件以上」


「対策は」


「警備を強化していますが、限界があります」


 正配は考え込んだ。


「彼らは、何を求めているんだ」


「分かりません。ただ、和平が許せないのでしょう」


「許せない、か」


 正配は窓の外を見た。


「彼らも、手紙を届ける価値があるんだ」


「え?」


「彼らにも、家族がいるはずだ。届けたい想いがあるはずだ。それを、俺たちは届けてこなかった」


「でも、彼らは敵ですよ」


「敵も味方も、関係ない。届けるのが俺たちの仕事だ」


 正配は立ち上がった。


「彼らに、手紙を届けよう」


「どうやって」


「探す。見つけ出して、家族からの手紙を届ける」


「危険です」


「分かっている。でも、やらなきゃいけない」


   *


 正配は、戦争継続派の残党を追った。


 万物配達権を使い、彼らの居場所を特定した。


 山中の隠れ家。荒野の洞窟。廃墟の地下。


 一つ一つ、訪ねていった。


 彼らは、最初、正配を襲おうとした。だが、正配は武器を持っていなかった。


「何の用だ」


「手紙を届けに来た」


「手紙?」


「お前たちの家族からだ」


 正配は、手紙を差し出した。


 彼らは、戸惑いながら受け取った。


『息子へ。何をしていても、お前は私の息子だ。帰ってきておくれ』


『兄さんへ。戦争は終わった。もう、戦わなくていいんだよ』


『夫へ。子供が生まれた。あなたに会いたがっている』


   *


 手紙を読み終えた彼らの中には、涙を流す者もいた。


 全員ではなかった。頑なに拒否する者もいた。


 だが、少しずつ、投降者が増えていった。


「なぜ、こんなことをする」


 ある男が尋ねた。


「俺たちは、お前の敵だったんだぞ」


「敵だったかもしれない。でも、今は違う」


 正配は答えた。


「お前たちも、誰かの家族だ。誰かに愛されている。その想いを、届けるのが俺の仕事だ」


 男は黙った。


 やがて、武器を置いた。


「……投降する」


   *


 一か月後、戦争継続派の残党は、ほぼ壊滅した。


 投降した者は、裁判にかけられた。だが、処刑される者はいなかった。和平条約の一環として、恩赦が与えられた。


 代わりに、社会奉仕が課された。


 多くの者が、郵便局で働くことになった。


「元テロリストを雇うんですか」


 ミミが心配そうに言った。


「大丈夫なんですか」


「大丈夫かどうかは、やってみないと分からない。でも、機会を与えなければ、彼らは永遠に敵のままだ」


「でも——」


「俺たちは、繋がりを作る仕事をしている。敵だった者とも、繋がれなきゃ意味がない」


 ミミは何も言えなかった。


 だが、結果的に、正配の判断は正しかった。


 元戦争継続派の者たちは、真面目に働いた。彼らは、手紙の重さを身をもって知っていた。だからこそ、誰よりも丁寧に、手紙を届けた。

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