第十四章 魔王の手紙

四王国同盟の成立は、大陸に大きな衝撃を与えた。


 長年対立してきた四つの国が、ついに手を結んだ。魔王軍に対抗するための、初めての連合体だ。


 郵便局は、その成立に大きく貢献した。仲介者として、連絡役として、そして信頼の象徴として。


「局長、よくやった」


 ユリウスが言った。


「四王国を一つにまとめるなんて、普通は不可能だ」


「俺がやったわけじゃない。手紙の力だ」


「謙遜するな。お前がいなければ、あの会議は実現しなかった」


 正配は肩をすくめた。


 確かに、大きな一歩だった。だが、まだ終わりではない。


 魔王軍との最終決戦は、これからだ。


   *


 同盟成立から一週間後、予想外の客が訪れた。


 魔王軍の使者だった。


「郵便局の局長殿に、お会いしたい」


 使者は、黒いローブを纏った魔族だった。顔は見えないが、声は若い女性のものだ。


「俺が局長だ。何の用だ」


「魔王様からの、配達依頼です」


 正配は眉をひそめた。


「魔王からの配達依頼?」


「はい」


 使者は、一通の封書を差し出した。


 黒い封蝋で封じられた、重厚な手紙だ。


「これを、四王国同盟に届けていただきたい」


「中身は何だ」


「魔王様からの、和平の申し出です」


 正配は驚いた。


 シルフィアも、ダルクも、全員が目を見開いている。


「和平だと?」


「はい。魔王様は、これ以上の戦いを望んでいません。話し合いで解決したいと考えています」


「本気か」


「本気です」


 使者は、深々と頭を下げた。


「どうか、届けてください。魔王様の想いを」


   *


 正配は、手紙を受け取った。


 重い。物理的な重さではなく、込められた想いの重さだ。


「届ける」


「本当ですか」


「ああ。郵便局は、差出人で差別しない。魔王であっても、手紙を届けるのが俺たちの仕事だ」


 使者は、安堵したように息を吐いた。


「ありがとうございます。魔王様も喜ばれるでしょう」


「ただし、受け取るかどうかは受取人次第だ。俺たちは届けるだけで、結果には責任を持てない」


「分かっています」


 使者は立ち去った。


   *


「局長、本当に届けるんですか」


 シルフィアが尋ねた。


「ああ」


「でも、四王国が受け入れるとは思えません。魔王の手紙なんて——」


「分かっている。だが、届けなければ始まらない」


「罠かもしれませんよ」


「かもしれない。だが、本物かもしれない」


 正配は手紙を見つめた。


「届けてみないと、分からない」


   *


 正配は、四王国それぞれに魔王の手紙を届けた。


 反応は、予想通りだった。


 ヴァレン王国:「魔王の戯言だ。無視しろ」


 イストリア公国:「罠に決まっている。相手にするな」


 メルディア連邦:「我々は、魔王を信用しない」


 カルム共和国:「和平など、ありえない」


 四国とも、拒否だった。


 正配は、魔王城に報告の手紙を送った。


『配達完了。しかし、受取拒否』


   *


 返信はすぐに来た。


『残念だ。だが、諦めない。もう一度、届けてほしい。内容を変えて、何度でも』


 正配は考え込んだ。


 魔王は、本気で和平を望んでいるようだ。だが、四王国は聞く耳を持たない。


 このままでは、戦争は終わらない。


 どうすれば——


「局長」


 ユリウスが声をかけた。


「魔王と、直接会ってみないか」


「直接?」


「ああ。手紙だけでは、真意が伝わらない。直接会って、話を聞いてみるべきだ」


「危険だぞ」


「分かっている。だから、俺も一緒に行く」


 正配はユリウスを見た。


 勇者の目には、決意の光があった。


「いいだろう。行こう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る