第十三章 四王国会議
郵便網の拡大に伴い、新たな課題が浮上していた。
四王国の間には、依然として緊張関係があった。魔王軍という共通の敵がいるにもかかわらず、互いに不信感を抱き、協力できていない。
「このままでは、各個撃破されるだけだ」
正配はスタッフ会議で言った。
「四王国が協力すれば、魔王軍に対抗できる。だが、そのためには対話が必要だ」
「対話といっても、どうするんですか」
シルフィアが尋ねた。
「四王国の代表者を、一堂に集める。会議を開く」
「それは……難しいでしょう」
「難しいことは分かっている。だが、やらなければ」
「でも、四王国の王たちが、そう簡単に集まるとは思えません」
「だから、郵便局が仲介する」
正配は立ち上がった。
「俺たちは中立だ。どの国にも属していない。だからこそ、仲介者になれる」
「それは……」
「まずは、各国に書簡を送る。会議の提案だ。郵便局が場所を提供し、安全を保証する」
*
書簡は、その日のうちに四王国に届けられた。
返答は、すぐに来た。
ヴァレン王国:「検討する」
イストリア公国:「前向きに考える」
メルディア連邦:「条件次第で参加する」
カルム共和国:「詳細を知りたい」
どれも、拒否ではなかった。
「脈はあるな」
正配は頷いた。
「各国と個別に交渉して、条件を詰める。シルフィア、お前はイストリアを担当してくれ。エルフの国だから、話が通じやすいだろう」
「分かりました」
「ダルクはヴァレン。人間の国だから、お前が適任だ」
「了解」
「グロムはカルム。ドワーフが多い国だと聞いている」
「任せろ」
「俺はメルディアに行く。獣人の連邦だ。ミミ、一緒に来てくれ」
「はい!」
四人は、それぞれの国へ向かった。
*
交渉は、難航した。
各国には、それぞれの事情があった。
ヴァレン王国は、イストリア公国と領土問題を抱えていた。イストリア公国は、カルム共和国の経済政策に不満を持っていた。メルディア連邦は、他の三国から差別されていると感じていた。
互いへの不信感が、根深く染みついていた。
「無理だ」
ダルクが報告した。
「ヴァレンの王は、イストリアの公爵と同席することを拒否している」
「メルディアも厳しい」
正配も溜息をついた。
「連邦の議長は、他の三国が獣人を差別していると主張している。対等な扱いを受けるまで、会議には参加しないと」
「イストリアは、まだましですが——」
シルフィアが報告した。
「公爵は、会議自体には賛成しています。ただ、場所と形式について、いくつか条件があります」
「カルムも同じだ」
グロムが言った。
「首相は乗り気だが、国内の反対派を説得する必要があるそうだ」
全員が顔を見合わせた。
「どうする、局長」
「続けるしかない。一つずつ、条件をクリアしていく」
*
交渉は、さらに続いた。
正配は、各国を何度も往復した。王や公爵、議長や首相と、何度も会談した。
時には怒鳴られ、時には無視され、時には追い返された。
それでも、諦めなかった。
「局長、もう限界では」
ミミが心配そうに言った。
「お身体に触りますよ」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないです。顔色悪いですよ」
「まだ動ける。動ける限りは、続ける」
ミミは何も言えなかった。
*
転機が訪れたのは、三週間後だった。
メルディア連邦の議長が、態度を軟化させたのだ。
「郵便局の活動を見ていて、考えが変わった」
議長は言った。
「お前たちは、獣人にも人間にも、平等にサービスを提供している。そういう存在が仲介するなら、信用できるかもしれない」
「ありがとうございます」
「ただし、条件がある」
「何でしょう」
「会議の場所は、郵便局にしてもらいたい。王都や首都ではなく、中立の場所で」
「承知しました」
メルディアが折れたことで、他の三国も動いた。
ヴァレンは、条件付きで参加を承諾。イストリアも同意。カルムも、国内の説得に成功した。
四王国会議の開催が、正式に決定した。
*
会議当日。
郵便局は、かつてないほど賑わっていた。
各国からの代表団が、次々と到着する。護衛の騎士、随員の官僚、通訳の魔法使い。
正配は、窓口の前に立って全員を出迎えた。
「ようこそ、転生郵便局へ。本日は遠路はるばる、ありがとうございます」
四人の代表者が、一堂に会した。
ヴァレン王国のアレクサンダー王。白髪の老王で、戦場で鍛えた威厳がある。
イストリア公国のエレノア公爵。エルフの女性で、知性的な瞳をしている。
メルディア連邦のガイウス議長。虎の獣人で、堂々たる体躯の持ち主。
カルム共和国のオーウェン首相。ドワーフで、鋭い目をした実務家。
四人は、互いを睨み合った。
緊張が、空気を張り詰めさせた。
「まず、お茶でもいかがですか」
正配が言った。
「長旅でお疲れでしょう。会議の前に、少し休憩を」
アレクサンダー王が鼻を鳴らした。
「茶など飲んでいる暇はない。さっさと本題に入れ」
「そう言わずに」
正配は、湯呑みを差し出した。
「これは、アクアリア諸島から取り寄せた特別な茶葉です。リラックス効果があるとか」
王は渋々湯呑みを受け取り、一口飲んだ。
「……悪くないな」
「でしょう」
他の三人も、茶を受け取った。
張り詰めた空気が、少しだけ緩んだ。
*
会議は、予想通り難航した。
各国が自国の利益を主張し、譲らない。
魔王軍という共通の敵がいるにもかかわらず、協力の具体的な方法で意見が対立した。
「我が国が主力を出すならば、指揮権は我々にあるべきだ」
アレクサンダー王が主張した。
「それは認められない。エルフの軍も、対等な立場で参加する」
エレノア公爵が反論した。
「いや、獣人の戦士団こそが——」
ガイウス議長も譲らない。
「まあまあ、落ち着いて——」
オーウェン首相がなだめようとするが、効果はない。
正配は黙って聞いていた。
そして、ある瞬間、口を開いた。
「皆さんに、お見せしたいものがあります」
全員が振り返った。
「何だ」
「手紙です」
正配は、一束の手紙を取り出した。
「これは、各国の民衆から届いた手紙です。宛先は、それぞれの王と公爵と議長と首相」
「民衆からの手紙?」
「はい。読んでいただけますか」
*
手紙には、切実な願いが綴られていた。
『王様へ。私の息子は戦争で死にました。これ以上、誰も死んでほしくありません。どうか、和平を』
『公爵様へ。私たちは平和に暮らしたいだけです。争いはもうたくさんです』
『議長様へ。私たちは同じ空の下に生きています。種族が違っても、心は同じです』
『首相様へ。子供たちに、安全な未来を残してください。お願いします』
*
四人の代表者は、黙って手紙を読んだ。
やがて、アレクサンダー王が溜息をついた。
「……民は、繋がりを求めているのだな」
「その通りです」
正配は言った。
「皆さんは、自国の利益を代表しています。それは当然のことです。だが、民衆は——民衆は、ただ平和に暮らしたいだけなのです」
「分かっている。分かっているが——」
「分かっているなら、行動してください。ここで協力を約束してください。民衆のために」
長い沈黙が流れた。
やがて、エレノア公爵が口を開いた。
「……いいでしょう。イストリア公国は、四王国同盟に参加します」
「メルディア連邦も、参加する」
ガイウス議長が続いた。
「カルム共和国も」
オーウェン首相が頷いた。
全員の視線が、アレクサンダー王に集まった。
王は、しばらく黙っていた。
そして——
「ヴァレン王国も、参加する。民の願いを、無視することはできない」
四王国同盟が、成立した瞬間だった。
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