第十二章 折れた剣

ユリウスの返信が届いてから、変化が起き始めた。


 勇者への手紙が、さらに増えたのだ。


「今日だけで、二百通を超えています」


 エリナが報告した。


「ユリウス殿が生きているという話が広まって、各地から手紙が殺到しています」


「二百通……」


 正配は頭を抱えた。


 嬉しい悲鳴ではある。だが、処理能力の限界を超えつつあった。


「勇者宛ての専用窓口を作るべきだな」


「専用窓口ですか」


「ああ。受付と仕分けを分けて、効率化する。ユリウスにも、定期的に手紙をまとめて届けるようにしよう」


「分かりました」


   *


 二週間後、ユリウスが郵便局を訪れた。


 山奥から降りてきたのだ。


「久しぶりだな、局長」


「ああ。元気そうで何よりだ」


 ユリウスは、以前とは別人のようだった。髭は剃られ、顔色も良くなっている。何より、目に光が戻っていた。


「手紙のおかげだ。毎日読んでいると、力が湧いてくる」


「そりゃよかった」


「それで、頼みがあるんだが」


 ユリウスは真剣な表情になった。


「俺に、郵便局を手伝わせてくれないか」


「手伝う?」


「ああ。護衛でも、配達でも、何でもいい。恩返しがしたいんだ」


 正配は考え込んだ。


 勇者を局員に採用する。前例のないことだ。


 だが——


「いいだろう」


「本当か」


「ただし、条件がある」


「何だ」


「勇者としてではなく、一人の局員として働いてもらう。特別扱いはしない」


 ユリウスは笑った。


「それでいい。むしろ、その方がありがたい」


 こうして、勇者ユリウスが郵便局の一員となった。


   *


 ユリウスは、予想以上に役に立った。


 剣の腕は衰えておらず、護衛として優秀だった。また、各地の地理に詳しく、配達ルートの最適化にも貢献した。


 何より、彼の存在が、郵便局の信頼性を高めた。


 勇者が働いている郵便局。それだけで、人々は安心して手紙を託すようになった。


「やっぱり、勇者って凄いんですね」


 ミミが感心して言った。


「何が凄いんだ」


 ユリウスは苦笑した。


「俺は、一度負けた男だぞ」


「でも、また立ち上がったじゃないですか。それって、凄いことだと思います」


 ユリウスは黙った。


 正配が口を開いた。


「勇者ってのは、強いから勇者なんじゃない。倒れても立ち上がるから、勇者なんだ」


「……そうかな」


「俺はそう思う。お前は、勇者だよ」


 ユリウスは目を伏せた。


「まだ、自分では——」


「いずれ分かる。焦るな」


   *


 ある日、ユリウスが相談に来た。


「局長、頼みがある」


「何だ」


「俺の剣を、直してほしい」


 折れた剣。あの小屋の壁に掛かっていたものだ。


「グロムに頼んでみるか」


「頼む」


 グロムは、折れた剣を見て唸った。


「これは……難しいな」


「直せないか」


「直せないことはない。だが、ただ繋ぐだけじゃダメだ。折れた場所は、どうしても弱くなる」


「じゃあ、どうすれば」


「鍛え直すしかない。一から作り直すのと同じくらいの手間がかかる」


 ユリウスは頷いた。


「頼む」


 グロムは剣を預かり、作業場に消えた。


   *


 三日後、剣が完成した。


 それは、以前とは違う姿をしていた。


 刃は短くなり、代わりに太くなっていた。柄には、郵便局の紋章が刻まれている。


「何だ、これは」


 ユリウスは驚いた。


「お前が使うなら、これが一番いいと思った」


 グロムが説明した。


「長い剣は、遠くの敵を斬るためのものだ。だが、お前の戦い方は、近くの味方を守る戦い方だ。だから、取り回しやすい短剣にした」


「取り回しやすい……」


「それに、これを見ろ」


 グロムは剣の腹を指差した。


「ここに、手紙を収納できるスペースを作った。緊急の配達に使える」


 ユリウスは剣を握り、振ってみた。


 軽い。以前の剣より、ずっと軽い。


「いい剣だ」


「だろう。俺の最高傑作だ」


「ありがとう、グロム」


「礼はいらん。その剣で、みんなを守ってくれ」


 ユリウスは頷いた。


 折れた剣は、新しい形で蘇った。


 勇者もまた、同じだった。

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