3.ウイスキー・ビジネス

 ローランド・マックデルの末路は誰もが知っている。胸に致命傷を負った彼は、表舞台での戦闘を諦め、コンシリエーレ(顧問)の任務を全うすることを明らかにした。彼は表舞台から姿を消し、ユニットは実質、指導者がいない状態となった。今日、ユニットのメンバーが集まり、ユニットの今後について話し合うことが決まった。


 俺は家から少し離れた場所に位置する廃工場に向かった。道では、新聞配達員が「号外だ!」と連呼しながら市民に新聞を渡していた。俺は新聞配達員の元に立ち寄り、新聞を受け取った。俺は新聞を読み上げた。新聞には、マフィアが連邦捜査局異常事件課と戦闘する様子を写した写真が貼られていた。俺は静かに道を離れた。

 俺が廃工場に着くと、そこにはユニットのメンバーが壁に寄りかかっていた。俺は言った。

「ローランド・マックデルが一線を退いてからというもの、ユニットの指導者は不在だ。」

 ボーンズは口を挟んだ。

「俺がこれからユニットを率いる。」

 ローレンス・アンソニー・アマトは言い返した。

「ボーンズにこのユニットのリーダーは任せられない。」

「お前こそ。テュケキネシスで俺がリーダーになる確率を捻じ曲げようとしているんだろ。」

「俺は正義のためにしかテュケキネシスを行使しない。正々堂々、戦闘でリーダーを決めようじゃないか。」

 ボーンズは素早く拳銃を取り出し、ローレンス・アンソニー・アマトの顔に狙いを定めた。それに怒ったローレンス・アンソニー・アマトは、テュケキネシスで拳銃をメリケンサックに変貌させた。ボーンズは呆れた口調で言った。

「俺の言う通りになったな。やはりお前はテュケキネシスを行使する。」

「お前がいきなり拳銃を取り出すからだ。」

「屁理屈を言い立てるな。」

 その時、トミーは言い放った。

「お前らにユニットの指導者を担う資格はない。ローランド・マックデルは唯一無二のお方だ。ユニットを解散しよう。」

 ボーンズは驚いた。

「このユニットはシカゴ市警察や連邦捜査局異常事件課にも抗争で勝利をしたのだぞ?そんなユニットを解散するなぞもっての外だ。」

 俺は言った。

「俺は抜ける。」

 トミーも賛同した。ボーンズは拳を強く握り締め、俺の頭を強く殴った。俺はボーンズの腹を蹴り上げ、頭を殴り返した。ローレンス・アンソニー・アマトはボーンズを見て笑い転げていた。俺はナイフを静かに引き抜き、彼の肩を内密に刺した。俺は言った。

「人を嘲笑うな。」

 ボーンズは床に落ちた拳銃を拾い、俺に向けた。


 その時、廃工場に革靴の足音が響きたわった。彼はボーンズの拳銃を取り上げ、首を叩いた。彼は若く、金髪でソフトな印象を与える。彼の目は青く、鮮やかかつ輝いている。顎や頰のラインが引き締まっていて、骨格が少し浮き立っている。俺は言った。

「お前は誰だ?」

 男はローレンス・アンソニー・アマトに拳銃を向けた。ローレンス・アンソニー・アマトは言った。

「仲間同士の闘争はスピリットのしきたりに反する。」

 男は言い返した。

「ボスからの命だ。ローランド・マックデルが私に任務を伝達した。」

「俺はボスに信用されているはずだ。現実改変者が嫌われるはずがない。」

「あまりに任務について口外できないが、ユニットに危険性があるとボスは考えているそうだ。このままお前らが歯を食いしばってユニットに残り続けると、今度こそ本当に粛清される。早くユニットを解散しろ!」

「トミーまでこの計画に関与していたとは驚きを隠せない。」

「俺はこの陰謀に参画していない。俺はただ、最も合理的な選択を選んだだけだ。」

 男は自らをルークと名乗り、ボーンズやローレンス・アンソニー・アマトを引き摺り回し、廃工場の外に放り投げた。廃工場の端では、もう1人の男が解散したユニットのメンバーを拘束器具を用いて拘束していた。彼は廃工場の反対側にいたため、全貌を見ることはできなかったが、40代後半特有の顔の弛みが見て取れる。


 かくして、4月6日から始まったユニットは終わりを迎えた。ルークはトミーに猿轡を取り付け、拘束してから廃工場の奥に運んだ。そして、廃工場に残る解散したユニットのメンバーは俺1人となった。ルークと廃工場の端にいた男は俺に近づいた。俺は解散したユニットのメンバーと同じ末路を辿ることを恐れ、拳銃を用意してから後退りをした。ルークは言った。

「ボスから通達だ。ボスは貴方を新規ユニットの指導者に選んだ。」

 その時、俺の頭の中に興奮と疑問が同時に込み上げた。ルークは話を続けた。

「廃工場の端で人を引き摺っているシド・キャシディも新規ユニットのメンバーだ。」

 シド・キャシディと呼称される男性はガンスピンを行ってから指でサムズアップをした。俺の混乱状態は収まり、俺は極度の興奮状態に陥った。俺はマフィア内で出世することを心から待ち望んでいたためだ。俺はチェシャ猫のような笑みを浮かべ、拳を下げたまま、拳を握りしめた。


 1919年6月14日。新たなユニットが結成されてから実に2ヶ月も経つ頃、ユニット内のメンバーは交友関係を深め、確固たる信頼関係を築いていた。

 一同は、目的地の古びた倉庫に向かって車を飛ばしていた。その車はかつてのユニットを思い出すようなボロボロの車だ。街の外れの霧がかかったような工業地帯で、周囲は錆びついた鉄骨と忘れ去られたコンテナが立ち並ぶ、陰鬱な場所だ。俺はハンドルを握りしめながら、口を開いた。

「どこか嫌な予感がする。この取引は絶対に怪しい。」

 新たなユニットの一員であるシド・キャシディは、後部座席からいつもの勝ち誇ったような笑顔を浮かべて、軽く肩をすくめた。シド・キャシディの顔は四角く、がっしりとしていた。彼の目は奥二重で力強く、まっすぐな視線で外を眺めていた。彼の薄い真一文字に結ばれた唇が彼の性格を物語っている。彼はチームの中では1番高齢である50歳であり、黒髪が短く生え際が後退している。彼は幅が広くしっかりとした鼻を触ってから言った。

「心配するな。俺にはいつも完璧な計画がある。」


 ルークはただ、深く喉を鳴らすような、ゴロゴロとした笑い声を上げただけだった。彼も新たなユニットの一員だ。シドはそれに腹が立ったらしく、後部座席で飛び上がりそうになり、ルークを叱りつけた。

「おい、笑うな!このビジネスは収益が見込める大事な仕事だ。」

 ルークは笑いながら言った。

「収益が見込めるだと?笑わせるなよ、ルーク。」

「おい、笑うな。」

「大事?さりとて、この仕事はただ単に遺物を運ぶだけの仕事だろ?内密に任務を遂行できたら成功。警察に見つかったらそれまでだ。要は運任せの仕事というわけだ。」

「運任せではない。運を期待する奴は、帳簿の赤字を運に押し付ける。運ではなく算盤だ。数字、流量、マージン、回転率を全部計算しなければならない。それら全てがビジネスだ。」

「算盤?ビジネスマン気取りかよ。」

「帳簿は必要だ。収益が見込めるということは、後ろ盾に金を回せるということだ。配下に給料を出す、賄賂を回す、次の仕入れを確保する。金が回らなければ、誰も動かない。」

「給料?賄賂?そんな堅苦しい言葉で数字を美化しても、結局は内密に任務を遂行できればいいだけだろ。警察に見つからないスリルが良いんだよ。」

「スリルで信用は買えない。お前がスリルを選ぶたび、信用は1mmずつ削れていく。信用が無ければ仕入れも止まる。仕入れが止まれば、収益なんて夢物語と化す。」

「急に真面目ぶるな。お前は銀行員か何かか?警察と内密に関わっているんじゃないのか?お前がボスに殺される姿が目に見える。」

「俺は銀行員じゃない。だが、銀行と同じルールに沿って行動している。帳尻を合わせる。貸し借りを管理する。忘れるな。こっちは現金の流れで世界を動かしている。笑いが出る余裕は、余裕のある奴だけだ。」

「余裕なんてねぇよ。俺は腹抱えて笑っているだけだ。笑うしかないだろ。こんな泥仕事。大事を連呼されても、結局泥になる。」

「泥だろうと金になるのが違いだ。泥でも金になるなら、誇りを持ってやれ。大事な仕事だから雑にやるなと言っているんだ。雑な仕事は余計なコストを生む。コストは誰が払うと思っている?」

「俺らだろ?それが嫌なら辞めちまえ。」

「辞めるという言葉を軽々しく吐くな。お前がいなくなったり怪我をしたら、誰がその穴を埋める?代わりはいくらでもいる。だが、代わりを育てるコストは高い。お前の行動でスピリットの機転が狂う。それがコストだ。」

「お前は俺の母みたいに厳しいな。それでルークは具体的に何をする。帳簿でも見せるのか?グラフでも作ってくれよ。俺が泣いて喜ぶから。」

「グラフだろうと口頭だろうと結果は同じだ。来月の流通ラインや運賃、賄賂の比率、潜伏時間、取り分。全部数値で出してある。数字が合えば収益が見込める。数字が合わなければただの博打だ。」

「お前は数字を連呼するが、数字が全てとは限らない。お前は数字さえあれば人が動くと思っている。人は数字だけでは動かねぇ。」

「人は数字と責任で動く。誰かに責任を押し付けるのではなく、誰もが引き受ける。ルールと罰則があるから、人は従う。それが組織ってもんだ。」

「罰則という脅しか?笑えるね。言葉で縛るなんてどこで学んだ。映画の見すぎだな。」

「脅しではない。脅しは感情、罰則は契約だ。契約を守るから流通が続く。契約を破るやつは、信用を失う。信用を失えば、供給も止まる。」

「供給が止まったらどうする?その時はお前が何とかするのか?お前は超人なのか?」

「俺は超人らのように能力は保持していない。しか、代わりに計画がある。代替ルート、保険、複数の連絡網。リスクを分散するんだ。お前の面白いから仕事に取り組むという態度がリスクを1点に集中させる。集中したリスクは爆発する。」

「爆発とは。シドはまた大げさに言うね。爆発しても生き残った奴が金を独り占めするだけだろ。ラッキーだ。」

「ラッキーだけで飯は食えない。持続可能な収益は、ラッキーではなく仕組みで作る。仕組みを壊すな。お前の笑いが、その仕組みを徐々に壊している。」

「そんな堅苦しい話ばかりしていたら、息が詰まる。スリルがないと楽しめない。楽しめないと長続きしないだろ?」

「楽しむというのは別の話だ。仕事と娯楽を混同するな。娯楽は娯楽でやれ。仕事は仕事だ。仕事の中に楽しさを見つけるのはいい。ただし、その楽しさが誰かの首を締めるようなものなら話は別だ。」

「誰の首が締まるんだ?具体的に示してくれよ。数字でな。」

「シンプルに示せる。供給が止まれば、配下に金が回らない。配下に金が回らなければ離反が起きる。離反が起きれば情報が漏れる。情報が漏れれば、ビジネスは成り立たない。1つの笑いが連鎖を生む。それだけだ。」

「で?やはり俺を脅すのか?命令するのか?」

「命令ではない。提案だ。提案に従えば、安定した分配が続く。従わなければテストがある。」

「テストか。どんなテストだ?」

「仕事だ。小さなラインを与える。期限、連絡、二重確認。数字で管理される小さな勝負だ。勝てば証明になる。負ければ、居場所は狭くなる。」

「つまり、言い合いだけで済まされないということか。」

「そうだ。口で笑うのは簡単だ。動いて数字を出すのが難しい。出してみせろ。数字で笑わせてやれ。」

「良いだろう。数字で証明してやる。だが、俺のやり方でな。」

「やり方は自由だ。ただし、結果は数字で判断する。数字が合えばどんなやり方でも構わない。数字が合わなければ、笑いはそこで終わる。」

「俺の出番だな。見とけよ、ルーク。お前の帳簿を笑わせてやる。」

「笑いで帳簿が動くなら、それは奇跡術だ。だが金は現実改変能力では動かない。数字が多くを動かす。それだけでも覚えておけ。」

 ルークとシドの口喧嘩は終わり、ルークはビジネスに向き合う態度を顔で示した。


 シド・キャシディは、いつもの派手なスーツの上に派手な真っ赤なジャケットを着用していた。マフィアは基本ダークトーンのスーツを着用する。派手なスーツはシドらしい自己主張だ。一方、ルークはシンプルな黒いスーツに、広い縁のフェドーラ帽をかぶってる。俺のスーツもルークと似ていて地味だ。空色のジャケットに白いパンツ。スーツはマフィアにおいて大事な挙動を制限する。そのため、俺はスーツが好きではない。シドはいつもスーツの使い勝手の悪さについて文句を垂れている。


 俺たちが社用車で倉庫のドアに到着すると、警備員が俺たちを睨みつけてきた。メインのヤードに入った瞬間から、奴らの視線が刺さるように感じた。ルークは車の中から既にその存在に気づいていたはずだ。俺もそうだ。当然、警備員は俺たちの武器を没収しようとした。シドとルークはそれぞれ1丁の銃を渡し、警備員に素直に従ったが、彼らは他にも武器を隠し持っている。だが、俺は銃を持っていない。警備員に硬い視線を投げかけて、コートの内側を少し見せるだけで、警備員は引き下がった。しかし、俺はソードスティックを隠し持っている。警備員はそれに気づきもしなかった。彼はきっと新入りで、経験が浅いのだろう。奴の目にはソードスティックはただの老いぼれた杖にしか見えなかったのだ。


 倉庫の中には、様々なサイズのクレートが何重も積み重なってて、間違いなく異常なアーティファクトがぎっしり詰まっている。埃が充満した空気に、微かな金属の匂いが混じっていて、不気味な雰囲気だった。部屋の中央に大きなテーブルが置かれ、椅子に囲まれている。そこに既に何人かが座っていた。テーブルの頭に、ドノヴァン・レイルが鎮座してる。彼は異常コミュニティの新興ディーラーで、急速に成功したせいで、傲慢さが鼻につく奴だ。ルークと俺は、すぐに周囲をスキャンした。キャットウォークの上には半ダースの男たちが潜んでいて、クレートの影にはさらに4人が潜んでいた。テーブルに座っている3人の執行者も入れて、対処しなければならない者らが合計で13人もいる。ドアの警備員は数えない。警備員はトラブルが起きたら真っ先に逃げるだろう。彼は新入りのたて、命知らずでないのだろう。俺は口をほとんど動かさずに、ルークに囁いた。

「椅子に座っている野郎が気に入らない。」

 ルークが低く応じた。

「そうだな。おい、シドよ、連中の中にあちこち雑魚が潜んでいる。」

 シドが話に口を挟んだ。

「おいおい、落ち着けよ。言っただろ。俺には計画がある。」


 ルークと俺は、目で合図を交わした。あいつの威勢の良さと過剰な自信に、俺はソードスティックの柄を少し強く握りしめた。ルークの指はそわそわ動いていたが、左腕の下に隠した銃には触れていなかった。シドがドノヴァンに向かって口を開いた。

「おお、ドノヴァンじゃないか。」

 シドは、ドノヴァンにハグをしてくれと言わんばかりに腕を広げた。ドノヴァンは軽蔑の目でシドを見つめた。ドノヴァンはビジネス成功の可能性を信じ、怒りをかろうじて保っていた。シドは言った。

「元気か? バックドア・ソーホーの仕事以来だな!」

「確かに。お前とは長らく会っていなかったな。あの取引はよく覚えている。俺たちの取引は予定通り迅速に進んでいた。だが、連邦捜査局異常事件課が現場に割り込んでから状況が悪化した。異常事件課は我々を執拗に攻撃した。その後、俺たちは周囲を確認してすぐに逃げ去ったよな。あの熱心で給料の安い馬鹿どもを相手にさせたまま。」

 珍しく、シドの尊大な態度が少し揺らいだ。シドは神経質に咳払いをして、シャツの襟を軽く引っ張った。

「お前が異常事件課に対して横柄な態度で振る舞うからあのような惨劇に至った。」

 シドは話している間、いつもの派手なジェスチャーと大げさな哲学を振りかざして、場を盛り上げようとしていた。俺はその様子に少し腹が立った。だが、シドが取引を進めてる間に、俺とルークは周囲を観察することができる。実際、俺とルークは地上階の4人の連中かま影からゆっくり現れた様子を素早く察知した。彼らは何かに備えてるみたいだ。その頃、ドノヴァンの顔に、小さな笑みが浮かんだ。

「お前も異常事件課を挑発した癖に、よくもそんなことが言えるな。」

「俺は冗談のつもりで言っただけだ。」

「俺はあのビジネスに失敗した所為で、アーティファクトディーラー業界から見放された。今は個人のディーラーとして活動を続けているが、俺が個人として活動を再会するのに何年かかったと思う?その間にどれだけの金が稼げたと思う?」


 物事が上手くいかなくなる時は、いつもあっという間だ。ドノヴァンが言葉を終えると同時に、ドノヴァンはリボルバーを素早く抜いて、シドに銃口を向けた。倉庫の薄暗いライトの下で、金属が冷たく光ったその瞬間、俺は既に動いてた。1つの流れるような動きで、俺は空中に跳び上がり、シドの前のテーブルに着地した。俺は、飛んできた弾丸をソードスティックで截って、半分に斬り裂いた。このような動作は俺にとっては些細なことだ。だが、俺はそこで止まらなかった。俺は一瞬で大きなテーブルを飛び越え、ドノヴァンの前に膝をついた。俺は、一方の手で彼の髪を掴んで頭を後ろに引き、首を完全に露出させた。もう一方の手には刃を握り、首にぴったり当てた。冷たい鋼の感触が、ドノヴァンの肌を震わせていた。


 シドを守りながらドノヴァンを制圧するのにかかった時間は、数秒だった。その間に、6発もの銃声が倉庫内に響き渡った。だが、俺はどれも気にしなかった。周りの連中が射撃した弾丸なぞ1発も当たらなかった。数瞬後、6つの体が落ちてコンクリートに叩きつけられた。俺は耳を澄ました。ルークが、キャットウォークの半ダースを片付けたのだ。ボスが俺の手にしっかり握られて、他の連中らは一瞬戸惑ったが、すぐに懐から銃を引き抜いた。

 馴染みの笑い声が後ろで響いて、すぐにシドが会議テーブルに飛び乗ってきた。シドは、長く大げさなストレッチをしてから、ドノヴァンと俺の方に優雅に歩いてくる。彼は俺の隣にしゃがみ込み、目の前の捕虜の男を大きくせせら笑った。

「ドニーよ、ソーホーの出来事で腹を立ててるのは重々承知しているが、こんな風に俺たちを倒そうとするなぞ、まっぴらごめんだ。ディーラーとしてその行動は下品すぎる。俺たちみたいな立派な犯罪者には似合わない。」


 その時、シドはドノヴァンの隣に置いてあった酒の瓶に気づいて、それを調べる過程をわざと見せびらかした。

「おいおい、見てみろよ? 160プルーフだ。ドニーよ、本当にお前は用意周到だな。しかも、この酒はドワーフのファイアウィスキーじゃねぇか。」

 シドは派手に、コートの内側からハンカチを取り出して、ウィスキーを注いで少し浸した。瓶に詰める前に、シドは思い留まった。このウイスキーは質が高く、全て無駄にするのはもったいないと考えたのだろう。シドは肩をすくめ、瓶を敬礼のように上げて、長い時間酒を飲み込んだ。口から上がる煙の柱が、本物のドワーフのファイアウィスキーの証明だ。熱いアルコールが喉を焼く感覚が、シドの顔を少し赤らめた。

「こいつは本当に体のエンジンをかける。ドミニックも飲むか?」

俺は答えた。

「今は銃で手が塞がっていて飲めない。」

「ルークは飲むか?」

ルークは応じた。

「シドを守備しているのにその態度は何だ?」

「誰も飲まないな。まあ、問題ない。この酒をお前らの火葬に残す。」

 シドの目はドノヴァンの目線と水平になった。シドの遊び心のある笑みが唇に広がった。だが、汗だくのギャングスターに近づくと、その笑みが消えた。

「ドニーよ、お前を生きて帰す。その代わりに、お前は倉庫の在庫を全て失う。つまり、俺たちは遺物と金を取るが、お前を生きて帰すということだ。ドニーよ、何故か分かるか?」

 ドノヴァンは喉をゴクリと鳴らし、俺の刃に首が押しつけられて軽く切れた。ドノヴァンの首からは血が流れ落ちた。ドノヴァンは弱く答えた。

「わ、分からない。」

 遂にシドは、浸した布に火を点けた。その布は素早く燃え上がった。シドは瓶を持って、最後の宣言をした。

「シカゴ・スピリットの権威を見せつけるためさ。お前の人生はシカゴ・スピリットの印象を高める道具へと利用される。」


 そして、遊び心のある笑みがシドの顔に戻った。彼は素早く立ち上がり、後ろに下がった。シドは瓶をクレートの山に投げつけた。そして、ドワーフのウイスキーによって、炎はあっという間に広がった。俺たちは数個のクレートに飛び移る前に、即時、退却した。シドは現金と遺物を素早く掴んだ。俺はドノヴァンにウインクをして、彼が座ってる椅子を蹴り倒した。ルークは俺たちの逃走を覆い隠すために銃を撃ち始めた。銃声の喧騒の中で、ルークの咆哮が聞こえた。

「シドよ、計画があると言ったのにこの様だ。」

 シドはいつものスタイルで、自分の弾丸を返しながら滑稽な笑みを浮かべた。

「何を言っている? これが計画だ。」

「格好つけずに本当のことを言ってみろ。」

「人生万事塞翁が馬。計画が上手くいかなかったとしても、物事は良い方向に転ぶかもしれない。ルークよ、これがスピリットだ。」


 俺たちは、倉庫内で弾丸が飛び交う中、急いでドアを突き破った。そして、一同はすぐに車に駆け込んだ。予想通り、倉庫の警備員はどこにも居なかった。俺はは、エンジンをかけたままにせず、鍵をイグニッションに残した。計画が急な退却を含む場合に備えての行動だ。シドとルークが車に飛び乗った後、車のエンジンが咆哮を上げ、ドアが閉まった。ドニーの子分がチェーンリンクのフェンスを閉めようとしていたが、俺はそれを気にせずにハンドルを回して、メインの道路に滑り込んだ。

 1マイルも走らないうちに、ルークが俺の肩を叩いて叫んだ。

「おい外を見ろ!奥に俺とシドの銃を横領した奴がいる!」

 ドノヴァンはきっと数十秒後ろに位置しているはずだが、俺はブレーキを踏んで、逃げる新入りゴロツキの横で止まった。ルークはただ、そのドノヴァンの子分に唸った。

「銃を今すぐ出せ!」

 ドノヴァンの子分はすぐにポケットに手を入れて、ルークとシドの銃を取り出した。ドノヴァンの子分は葉のように震え、ルークとシドに銃を手渡した。

「よし、失せろ。ちゃんとした仕事見つけろよガキ。」

 俺はドアハンドルを素早く弾き、ルークはドアにドノヴァンの子分を叩きつけた。ドノヴァンの子分は道路から滑り落ち、泥の溝に落下した。ルークの笑いと共に、俺たちはハイウェイを疾走して、倉庫の炎を後ろに残した。シドは窓から身を乗り出した。シドが後ろの炎を消化するのに1分もかかった。俺はバックミラーで爆発を見ただけだがそれは完璧に見えた。炎が夜空を赤く染め、煙が渦を巻いて上がる様子は、まるで俺たちの勝利を祝う花火のようだった。

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