第十九章 清一の賭け

翌朝。


 清一は、「終末の炉」がある旧魔術研究施設へと向かった。


 見送りには、エルダ、トバル、フェリクス、そしてリーゼロッテが来ていた。


「レイド」


 リーゼロッテが、清一の前に立った。


「必ず、戻ってきてください」


「……努力します」


「努力では足りません」


 王女の声が、震えた。


「約束してください。必ず——」


「約束します」


 清一は、静かに言った。


「必ず、戻ります」


 リーゼロッテは、しばらく清一を見つめていた。


 そして——


 清一の手を、握った。


「……待っています」


「ああ」


 清一は頷き、歩き出した。


 振り返らずに。


   ◇


 施設の最奥部。


 「終末の炉」の前に、清一は立っていた。


 巨大な構造物が、淡い光を放ちながら佇んでいる。その光から、膨大な魔素が放出され続けている。


『空気中魔素濃度:125ppm 極度の危険域』


 時間がない。


 清一は、炉に近づいた。


 そして——両手を、炉の表面に当てた。


「『分解鑑定』——フルパワー」


 意識を集中する。


 清一の視界に、炉の内部構造が浮かび上がった。


 複雑に絡み合った魔法回路。その中心に、輝く結晶——コア。


 これを、分解する。


 清一は、意識を結晶に集中させた。


 「分解」を、誘導する。


 結晶の構成要素を、一つ一つ——


「ぐっ……!」


 激痛が、全身を貫いた。


 結晶から、エネルギーが逆流してくる。清一の「分解鑑定」に反発するように、結晶が抵抗している。


 だが——


「止まれ……!」


 清一は、歯を食いしばった。


 前世で、二十年間培った経験。この世界で、一年以上積み上げた技術。


 その全てを、この一点に集中する。


「俺は——諦めない……!」


 結晶が、揺らいだ。


 分解が、始まった。


 少しずつ、結晶の構造が崩れていく。


 同時に——大量のエネルギーが放出され始めた。


 清一の体が、熱を帯びる。


 視界が、白く染まっていく。


「……まだだ……!」


 清一は、意識を保った。


 最後の一押し。


 結晶の——最後の——結合を——


 ——断つ!


   ◇


 爆発は、起きなかった。


 代わりに——静寂が、訪れた。


 「終末の炉」は、光を失っていた。


 千年以上にわたって動き続けてきた古代遺物が——ついに、停止した。


「……終わった」


 清一は呟いた。


 体中が痛い。意識が朦朧としている。


 だが——生きている。


「……生きて、いる……」


 清一は、床に崩れ落ちた。


 そして、意識を失った。


   ◇


 清一が目を覚ましたのは、三日後だった。


 王都の、リーゼロッテの離宮。


 柔らかいベッドの上で、清一は天井を見上げていた。


「……生きて、いるのか」


「レイドさん!」


 隣で、エルダが叫んだ。


「気がついたんですか!? よかった……よかった……!」


 少女の目から、涙がこぼれ落ちた。


「……俺は、どうなった」


「施設が崩壊した後、トバルさんたちが救出しました。意識不明で運ばれて——三日間、眠り続けていたんです」


「三日……」


「『終末の炉』は——停止しました。魔素の放出が、止まったんです」


 清一は、目を閉じた。


 成功した。


 「緑区」の汚染源を、断つことができた。


「……リーゼロッテ殿下は」


「すぐに来ます。呼んできます!」


 エルダが駆け出していった。


 清一は、静かに息を吐いた。


 約束を、守れた。


 必ず戻ると——約束したのだから。

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