第十六章 王の決断
ヴァルドルフの逮捕から一週間後。
国王アルベルト三世は、王城の広間で「裁定」を下した。
大司教ヴァルドルフは、国家反逆罪により、聖堂の全ての役職を剥奪され、王都から追放。
浄化師団副長カシウスは、暗殺未遂罪により、終身の投獄。
そして——
「聖堂の『浄化』独占を、廃止する」
国王の宣言は、王国全土に衝撃を与えた。
「今後、浄化は聖堂の専権事項ではなく、王国の『公共事業』として扱う。聖堂の浄化師は引き続き活動できるが、塵拾いギルドの土壌改良も、同等の資格を与える」
この決定により、清一の「土壌改良」は、正式に聖堂の「浄化」と同格の技術として認められた。
独占が終わり、競争が始まる。
民衆は、自分で選ぶことができるようになった。高くて速い聖堂の浄化か、安くて遅い清一の土壌改良か。
多くの人が、後者を選んだ。
塵拾いギルドへの依頼は、爆発的に増加した。
◇
「レイドさん、大変です!」
エルダが、山のような書類を抱えて工房に駆け込んできた。
「今月の依頼件数——三百件を超えています!」
「処理能力の限界だな」
清一は、頭を抱えた。
現在のギルド員は約四百人。だが、三百件の依頼を同時に処理することは不可能だ。
「人を増やすしかない」
「ですが、訓練された人員が——」
「訓練する。今いる人間が、新しく入った人間を教える。そうやって、組織を拡大していくしかない」
清一は、窓の外を見た。
王都の街並みが広がっている。その向こうに、北の空——「緑区」のある方角。
「だが、それより先に——やらなければならないことがある」
「『緑区』ですか」
「ああ」
清一は頷いた。
「リーゼロッテ殿下との約束だ。五年で、『緑区』を浄化する」
「五年……」
エルダは、不安げな顔をした。
「本当に、できるんでしょうか」
「分からない」
清一は、正直に答えた。
「だが——やらなければ、できるかどうかすら分からない」
その時——
工房の扉がノックされた。
開けると、王城の使者が立っていた。
「塵拾いギルドの長、レイド殿。国王陛下が、お呼びです」
◇
王城の私室で、清一は国王と対面した。
アルベルト三世は、以前よりも顔色が悪かった。病が進行しているのだろう。
「レイド」
国王は、椅子に深く腰掛けながら言った。
「『緑区』の浄化を、お前に任せたい」
「……光栄です、陛下」
「ただし、条件がある」
国王は、一枚の書類を差し出した。
「五年で、『緑区』全域を浄化すること。それができれば——お前に、報酬として金貨一万枚を支払う」
金貨一万枚。
清一は、驚きを隠せなかった。
それは、王国の年間税収の一割に相当する莫大な額だ。
「陛下、それは——」
「ヴァルドルフが聖堂に要求していた額だ」
国王は、疲れた笑みを浮かべた。
「聖堂に払う予定だった金を、お前に払う。それだけのことだ」
「……ですが、五年で『緑区』全域というのは——」
「できないか?」
「正直に申し上げて——不確実です」
清一は、言葉を選びながら答えた。
「『緑区』の面積は、これまで私が手がけてきた土地の数千倍あります。人員、設備、資金——全てが、圧倒的に不足しています」
「だから、金を出す」
国王は言った。
「金貨一万枚を、五年かけて分割で支払う。最初の一年で金貨二千枚。それを使って、人員と設備を揃えろ」
清一は、しばらく黙っていた。
そして——
「お受けします」
「……できるのか」
「できるか分かりませんが——やります」
清一は、国王の目を見据えた。
「これは、私が始めた戦いです。私が——責任を持って、終わらせます」
国王は、しばらく清一を見つめていた。
そして——
微笑んだ。
「……いい目をしている」
「陛下?」
「お前のような人間が——もっと早く、現れていればよかった」
国王は、窓の外を見た。
その目には、後悔の色が浮かんでいた。
「私は、長い間——聖堂に支配されていた。ヴァルドルフの言いなりになり、民を見捨てていた」
「陛下は——」
「いや、言い訳はしない」
国王は、首を横に振った。
「私は、弱い王だった。だが——せめて、最後くらいは、正しいことをしたい」
国王は、清一に向き直った。
「レイド。『緑区』の浄化を——頼む」
「……承知しました」
清一は、深く頭を下げた。
「必ず——成し遂げてみせます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます