第十一章 浄化利権の闘
王国公認を得てから三ヶ月が経った。
「塵拾いギルド」の規模は、もはや「ギルド」という言葉では収まらなくなっていた。
所属員は三百人を超え、王都周辺の十五の村と契約を結んでいた。年間の取引額は、金貨五百枚相当。中堅商会に匹敵する規模だ。
清一は、ギルドの本部となった元倉庫の二階で、帳簿を眺めていた。
エルダが、報告書を持ってきた。
「レイドさん、今月の収支報告です」
「ありがとう」
清一は、報告書を受け取った。
収入は順調に伸びている。だが、支出も増えている。人件費、設備費、そして——
「『妨害対策費』が、また増えてるな」
清一は、眉をひそめた。
聖堂は、表立った攻撃を控えている。だが、水面下での妨害は続いていた。
取引先への「忠告」。運搬中の襲撃。工房への放火未遂——
これらへの対策費用が、ギルドの収益を圧迫していた。
「カシウスは、諦めていないな」
清一は呟いた。
「国王の『共存命令』を表向きは守りながら、裏で俺たちを潰そうとしている」
「どうしますか?」
エルダが、不安げに訊いた。
「このまま続ければ、いつか大きな事故が……」
「分かっている」
清一は、立ち上がった。
「だから——先手を打つ」
「先手?」
「聖堂の『利権』の本質を、暴く」
清一の目に、鋭い光が宿った。
「なぜ、聖堂は『浄化』を独占しているのか。なぜ、金貨五十枚という法外な価格を設定しているのか。その『構造』を、明らかにする」
◇
清一が調査を開始してから一ヶ月後。
驚くべき事実が、明らかになった。
聖堂の「浄化」サービスの収入は、年間金貨一万枚以上。王国の税収の約一割に相当する、巨額の「献金」だ。
だが、その金は——どこに消えているのか。
浄化師団の運営費用を差し引いても、金貨八千枚以上が「余剰」として残るはずだ。
その金が、どこに流れているか——清一は、商人たちの証言と帳簿の分析から、ついに突き止めた。
「聖都」。
王国から遠く離れた、聖堂の総本山。そこに、王国で集められた「献金」のほとんどが送金されていた。
つまり——
聖堂は、「浄化」という名目で王国の民から金を搾り取り、その金を国外に流出させていたのだ。
「これは……」
リーゼロッテは、清一がまとめた報告書を読み、絶句した。
「売国、に等しい行為です」
「はい」
清一は頷いた。
「聖堂は、『神の業』という名目で、王国を食い物にしている。これが——『浄化利権』の正体です」
「父王に、報告しなければ」
「ですが、証拠が必要です」
清一は、冷静に言った。
「今あるのは、商人たちの証言と、間接的な帳簿の分析だけ。聖堂は、『正規の献金だ』と主張するでしょう」
「では、どうすれば……」
「決定的な証拠を、手に入れる必要があります」
清一は、報告書を閉じた。
「聖堂の内部から——」
◇
その「証拠」を手に入れる機会は、意外なところから訪れた。
ある夜、清一の元に、一人の若い司祭が訪ねてきた。
「レイドさん……ですか」
青ざめた顔。震える声。そして——法衣の下から覗く、包帯に巻かれた腕。
「誰だ」
「私は……聖堂の、下級司祭です。名前は——フェリクスと申します」
フェリクスは、おずおずと清一の工房に入った。
「お願いが、あります」
「何だ」
「私を……匿ってください」
清一は、眉をひそめた。
「なぜ、俺のところに」
「カシウス様に……追われているのです」
フェリクスの目に、涙が光った。
「私は、知ってしまったのです。聖堂の——『秘密』を」
◇
フェリクスの話は、衝撃的だった。
彼は、浄化師団の経理を担当していた下級司祭だった。日々の業務の中で、不審な送金記録を発見した——聖都への、説明のつかない巨額の送金。
最初は、何かの間違いだと思った。だが、調べれば調べるほど、その「送金」の規模と頻度が異常であることが分かってきた。
フェリクスは、上司に報告した。
その夜、彼は襲われた。
「命だけは、助けてもらいました。ですが——」
フェリクスは、包帯の巻かれた腕を見せた。
「これは、『警告』だと。もし口外すれば、次は首だと」
清一は、黙ってフェリクスの話を聴いていた。
「私は……逃げました。王都を出て、どこか遠くへ……でも、聖堂の手は長い。どこへ行っても、追われる」
フェリクスは、清一の目を見つめた。
「あなたなら……あなたなら、聖堂と戦えるかもしれない。だから——」
「分かった」
清一は頷いた。
「お前を、匿う」
フェリクスの顔に、安堵の色が浮かんだ。
「その代わり、協力してもらう」
「……何をすれば」
「証拠を、手に入れる」
清一は、静かに言った。
「聖堂の『秘密』を——全て、暴く」
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