第6話 足跡

「あら、今朝も賑やかねえ」

孫達を預かるために娘夫婦の自宅までいつものように車でやって来たのだが、玄関のドアの向こう側からはドタバタと騒がしい空気が伝わってくる。

きっとエンジンの音でわたしが到着したことに気付いたのだろう。

チャイムを鳴らすと娘婿がドアを開けてくれた。


「お義母さん、おはようございます。いつも助かります。…すみません、あとはお願いしていいですか」

少し切羽詰まった表情から、遅刻寸前なのを察した。

「いいわよ、気をつけてね」

お願いします、と言い残して走り去って行く背中を見送る。


「…いつもああなの?」

「ううん、今朝は特別。目覚ましのアラーム消して二度寝したみたいでさ、寝坊したのよ。昨日の夜、珍しく夜泣きひどくて。私もあの人も寝不足なの」

「そんな日もあるわねえ。…あら、ゴミ袋置いたままね」


玄関にはあとは出すだけのゴミ袋が取り残されていた。

「遅刻しそうで忘れたのね…あ、起きたみたい」

双子たちの泣き声が聞こえてきた。


「わたしが出してきてあげる。角の公園のところよね?」

「うん、そう。誰かいるからすぐわかると思うわ」


門を開け、敷地の外に出る。

道路の真ん中の少しくぼんだところに大きな水たまりがあった。

一瞬、水たまりの左に避けるか右に避けるか迷ったが猫の足跡があるのを見つけ、右に避けた。

ゴミ袋を置いて戻る時にふと思った。


あの猫の足跡、まるで水たまりから出てきたみたい。

門を開ける。

振り返るともう水たまりは見えなかった。

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通り過ぎたあと 薄明 @Cheshirecat61

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