5-8

ナズナの意を汲み取ってある程度手加減をしているようだったが、魔族でないリュウシンにはかなりのダメージを与えたようだ。

一瞬だけ痛みでリュウシンの仏頂面が歪み、身体が揺れる。だがまだ闘志は消えておらず、再び構え直した。


「…どうした、魔界の王よ。その程度ではワタシの心は折れぬぞ!」


挑発してエリゴスの怒りを誘っているようだったが、そこはエリゴス。伊達に長く生きていない。戦いの場では意外にも彼は冷静なのだ。

リュウシンの見え見えの挑発に乗らず、むしろ彼を殺さぬようにどう戦おうかを思案している。

エリゴスが本気を出せば、この水妖族の青年の命などすぐにでも奪うことが出来るのだが、契約主であるナズナがそれを望んでいない。ナズナは彼から直接話を聞きたいと望んでいる。契約主がそう望むのなら、それを叶えてやらねば。

再びエリゴスは翼を使って宙に浮かび、槍の切っ先をリュウシンに向けて言い放つ。


『ならば貴様の心が折れるまで、何度も手折ってやろう!』


「…フン…」


 リュウシンはちらりとナズナを横目で見、そしてソルーシュとヴィルヘルムに視線を移した。何となく嫌な予感がしたソルーシュとヴィルヘルムは、ナズナの手を引いて彼の視線から逃れようと走り出す。

リュウシンは腰を少し落とし、ナズナに向かって片手を突き出した。また銃弾が飛んでくるのだろうと誰もが思ったが、銃弾が飛んで来なかった代わりに衝撃波が襲い掛かってきた。

放たれた衝撃はエリゴスをすり抜け、逃げ出した三人の背中にまともに喰らう。

重い衝撃波に三人は地面にどうと倒れてしまった。ナズナの集中が切れたことにより、リュウシンと対峙していたエリゴスが強制的に彼女の中へ戻されてしまう。


 好機と言わんばかりにリュウシンが一気にナズナ達の元へ距離を詰める。

三人はまだ動けそうにない。辛うじて動けるヴィルヘルムがナズナをリュウシンの魔の手から守ろうと彼女の身体に覆い被さろうとしているが、リュウシンの蹴りに阻まれる。

為す術もなく、ヴィルヘルムは大理石の床に転がされ、気絶した。

 ソルーシュが気力を振り絞ってリュウシンの足首を掴み、どうにか意識を自分の方へ向けようとするが徒労に終わる。煩わしそうに彼の手を振り払い、ヴィルヘルムと同じようにソルーシュの身体に蹴りを入れて気絶させた。

ようやく邪魔が入らなくなったと一息吐き、倒れているナズナの片手を掴み軽々と人形のように持ち上げる。彼女は気を失っているのか、微かに呻き声を漏らしただけだった。

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