5-9


「……」


一瞬だけ目を細め、リュウシンはようやく捕まえたナズナを眺める。

今与えた傷自体は軽いものだ。帝国に向かう道中で完治するだろうし、傷も残らない。第二の儀式を行うのに何の支障もない。

 目的のものを捕まえたので、このような場所に長居は無用と彼はナズナを横抱きにし、足早に立ち去ろうとした。

ナズナから妙な気配を感じ、足を止める。この妙な気配をリュウシンはよく知っていた。


玉飛ユーフェイ星君シンジュン様…」


水妖族が信仰している神は花嫁であるナズナの身体を借りてリュウシンの両腕から力ずくで逃れた。ナズナの顔を苦々しく歪め、リュウシンを睨み付ける。


『我が花嫁の身体に、軽々しく触れないでもらおうか』


 起き上がったナズナの声は先のメルセデスと同じように彼女自身の可憐な声ではなく、低い落ち着いた青年の声だった。リュウシンは即座に先程のナズナ達に対する不遜な態度を潜め、水妖族の神…ユーフェイに向かって平伏する。


「失礼致しました、ユーフェイ様。ワタシの名はチ張流星チャン=リュウシン。この神嫁シェンジャの護衛役に任じられている者です。

 帝国からお迎えに上がりました」


ナズナの姿を借りた水妖族の神は腕を組んだまま無表情で平伏する水妖族の民を見下ろしていた。何も返さない神から、殺気がリュウシンに向かって放たれている。

疑問に思ったリュウシンが顔を上げると、ナズナの両手にはいつの間にか剣が握られていた。うっすらと微笑みながらユーフェイは静かに言う。


『…我らはまだ帰れぬ』


「?!」


思ってもみなかった神の返答にリュウシンは頭が真っ白になり、しばし固まった。


「どういうことでしょうか…?」


『我が魔力がこの世界のどこかに散らばっており、今の我は神嫁シェンジャの身体を借りねばこうして外に出ることも出来ぬ。

 これでは帝国に帰っても第二の儀式が行えぬぞ』


「何と…」


ユーフェイから告げられる彼の事情にリュウシンは落胆を隠せない。やっとこうして行方不明になっていた神とその花嫁を見つけて接触し、そして捕縛出来たというのに。


 果たしてこのまま連れ帰ってもよいのだろうかとリュウシンは自問自答する。


だが、故郷の現状を思い出すに背に腹は代えられない。例え魔力が少なくても彼らを連れ戻し、ユーフェイが本来いるべき場所である神殿にいてもらった方がましではないのか。

 彼の言う各地に散らばった魔力はその後で回収に赴き、そして第二の儀式を行えばいい。少なくとも故郷が枯れて行くのを止めることが出来るはずだ。

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