4-16

「め、メルセデスさん、結果こそよかったものの、貴方エリゴスに騙されたんですよ?!」


『彼の言う通りです!』


そうソルーシュと神威に指摘されてメルセデスははっとして気づく。

ナズナの髪を優しく撫でていた手が止まり、わなわなと震える。彼女の顔を見てみると、先程の夢見る乙女の表情は消え失せて唇が引き攣り、髪と同じ茶色の柳眉を逆立てている。

慌ててナズナの中から神威が出てきて彼女を宥めた。


『メルセデス、何の関係もない貴方を巻き込んでしまって本当に申し訳ありませんでした。

 その、私も貴方がここでナズナの記憶の欠片の守り役として留まっているとは知らなかったものですから…』


『神威さんが謝る必要は全くありませんわ』


神威の謝罪と弁解にメルセデスは固い声で斬り捨てた。そして冷たい視線をナズナに、否、ナズナの中にいる魔界の王へ向けてさらに続ける。


『真に謝罪し、罪を償うべきは私を騙したエリゴス様…否、エリゴスなのですから』


 ナズナがエリゴスのフォローをしようと口を開きかけたが、彼女の怒りを鎮めるには本人を出した方がよいと神威が助言し、交代させる。

出てきたエリゴスはすでに覚悟していたのか、神妙な表情をして目を伏せていた。そして何の弁解もせずにメルセデスに向かって頭を下げる。


『すまぬ』


普段の彼なら長々と言い訳しそうなものの、今回はそうしなかった。予想外のエリゴスの謝罪にメルセデスを始め全員が呆気に取られている。それを気にせずに彼はさらに続けた。


『今更言い訳はしない。騙した罪は贖おう。如何様にもしてくれ』


 したところで彼女の怒りは収まらないことをエリゴス自身も分かっているのだろう。だからどんな罰でも甘んじて受けるつもりなのだ。彼の毅然とした態度にメルセデスはまだ何か言いたそうに口をぱくぱくさせたが、ぐっと思いとどまった。

エリゴスに唆されたのは事実だが、その口車に乗ってしまったのは他ならぬ自分自身。そのおかげでこうしてメルセデスが想いを寄せる神威と、また会うことが出来たのだ。

 前向きに考えれば騙されたことなどほんの些細なことに過ぎない。そうメルセデスは思い直す。


『…もういいですわ。ただし、また神威さんの名を使って騙そうとしたらただじゃおきませんからね!』


『…ああ』


『精々、これからも貴方の小さい主を助けてあげて下さいませ。それが貴方への罰と致しますわ』


 こうして、フェアデルプ灯台から聞こえてきた正体不明の歌声は本日をもって消え、潮騒の音と風の音だけが残された。

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