4-12

メルセデスの瞳は緑色だが、その瞳に生気は失われていた。どこか焦点の定まらない瞳に射竦められ、ソルーシュは内心怯む。

女性はソルーシュの質問に答えないまま、彼とその隣に立つヴィルヘルム、そしてナズナの順にその焦点の合わない緑の瞳を動かす。ナズナの姿をその瞳に映した瞬間、女性の虚ろな表情が狂喜のそれに変化し、初めて口を開いた。


『我が花嫁、ナズナよ』


「え…?」


「はあ?!」


 女性から発せられた言葉と声音に三人は驚愕した。女性から発せられた声音は男性のそれだった。

その声に、そしてその言葉に聞き覚えがあった。夢の中ではあるが、つい最近聞いたものである。まだ名前と姿が分からない彼のものだ。

女性は喉の奥で笑ったかと思うと、突然苦しみ出した。彼女の唇から零れ出た呻き声は先程の男性の声ではなくなり、おそらく彼女本人のものと思われる声。

女性は呻き声を上げながら、だんだん姿が変わっていく。彼女の腰から下が獅子の身体になり、片手には細工の施されていない無骨な剣が握られている。あまりの変貌ぶりに三人は言葉を失い、呆然としている。


『何をぼさっとしている!構えろ!』


エリゴスの叱咤に慌てて三人は武器を取り出して身構える。ナズナは神威を召喚し、彼に尋ねた。


「神威、この方は本当に貴方の知り合いの精霊さんですか?」


神威も混乱しつつ頷く。


『ええ、確かに彼女は私の知り合いの精霊のメルセデスです…。

 彼女から発せられる魔力の気配は数年前会った時と同じもの…ですが、一体何故?それに先程の声は…』


「それはそうと、一度神威が彼女に呼びかけてみてくれないか?

 お前の気配を察して歌声を止めたんだから、直接呼びかけてみたらどうにかなるかもしれないだろ?」


ソルーシュの提案に神威は一理あると思い、翼を広げてメルセデスの元へ飛んだ。彼女の目の前で滞空し、なるべく穏やかな声で呼びかける。


『メルセデス、お久しぶりです。私です。神威ですよ』


神威の声を聞いて一瞬だけメルセデスの緑の瞳に生気が宿る。


『カ…ムイ…カムイ…』


 動きを止めた彼女に安堵した次の瞬間、メルセデスは一時の気の迷いを振り払うかのように先程の合成獣キメラ以上の凄まじい咆哮を上げて襲い掛かってきた。

メルセデスは手にしている剣を振り、目の前を飛ぶ神威を遠ざける。止む無くナズナの元に戻ってきた神威。彼は説得出来なかったことに気落ちしつつも、彼女の攻撃から主を守るために専念することにした。

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