4-5
ナズナが誘拐された報せを受けてすぐに彼女の母親であり、ヴィルヘルムの叔母であるヒスイ自ら娘捜索の旅に一人出向き、執念でナズナを見つけ出して帰還した。
従妹帰還の報せを聞き、ヴィルヘルムも彼女に会おうとしたものの、数ヶ月は会うことが出来ずに歯痒い思いをした。
そしていざ会えた時、彼女は従兄であるヴィルヘルムのことを覚えていなかったのだ。彼だけでなく、彼の両親や幼馴染のソルーシュ、そしてナズナ自身の家族のことも。さらに言うなら、彼女は自分自身の名前しか覚えていなかったのだ。
ヴィルヘルムは叔母に従妹に何があったのかを尋ねたが、叔母はただ悲しそうな表情で謝るだけだった。さすがの空気が読めないことに定評のあるヴィルヘルムも、それ以上は何も聞けない。そしてその数日後、叔母は帰らぬ人となった。
ソルーシュも同じことを思い出していたのか苦い顔をしている。おそらくあの青年もナズナと再会した時、自分のことを忘れられていて歯痒い思いをしたに違いない。
彼とナズナの間に一体何があったのかは分からないが、彼が怒鳴りたくなる気持ちはヴィルヘルムにも少し理解出来た。
「…他には何を思い出せたんだい?」
「私が…誰かの花嫁になったということですかね…」
ナズナの発言に二人はしばし固まった。誰かの花嫁と聞いてすぐに連想された相手はあの水妖族の青年だ。それだったらあの青年が言っていたことと、ナズナに対する激しい憎悪にも説得力がある。
二人の考えが何となく読み取れたナズナは否定するように首を小さく振った。
「違います。あの方ではありません。あの方は
その私の花婿に当たる方の姿は…まだ思い出せていないのです。ただ、あのリュウシンという方とは全然違う雰囲気を纏っていて…どちらかといえばそう、神威に近い感じですね」
「神威に…」
徐々に明らかになっていくナズナの空白の時間。知っていくにつれて、攫われた幼いナズナがどんな状況に置かれていたのか推測しやすくなる。
だが、それはナズナにとっても、第三者であるソルーシュやヴィルヘルムにとっても良いものとは言え無さそうなものだった。
あの水妖族の青年リュウシンとの出会いを思い出してみるに、そこまで悪いものではなかった。ぎこちないながらも、幼いナズナに歩み寄ろうという気持ちを感じられたのだ。
一体どんなことがあって、彼はナズナを憎むようになったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます