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言葉を失う神威にエリゴスは珍しく申し訳なさそうに続けた。


『確かに俺も彼女を煽るようなことは言った。それは認める。

 そして小僧が考えている通り、我らが主ナズナと大地の精霊の娘とは何の面識も無い』


「では何故その彼女は…?」


『…直接本人に聞け』


これ以上魔界の王を問い詰めても無駄と悟った神威が、ぐっと唇を噛みしめてナズナの中へ戻る。

彼がナズナの中へ戻ったことで、途切れていた歌声は再開された。居た堪れない空気がナズナ達の間に流れる。そこでぽつりとナズナが零した。


「私のせいで、神威の知り合いの方を巻き込んでしまったのですね…」


『自分を責めるな。本当に責められるべきは元凶である水妖族の連中だ』


「は?何でそこで水妖族の名前が出てくるんだよ?」


 エリゴスこそ反省すべきだと言わんばかりにソルーシュが糾弾するが、エリゴスは喋り過ぎたと気づき肩を竦めてナズナの中へ逃げ込む。戻ってしまったエリゴスに舌打ちをしながらソルーシュは石造りの天井を仰ぐ。


「はあ…謎は深まるばかりだな…」


「本当だよ。全く君はどれだけの秘密を抱えているんだい?」


ソルーシュの独り言に同意し、ヴィルヘルムはしょんぼりしているナズナに詰め寄った。

そうは言われてもナズナ自身にもどうしようもないことだ。全てはナズナが与り知らぬところで進んでいたことなのだから。

返答に困るナズナを見兼ねてソルーシュが騎士の脇腹を肘でつつくが、鈍い彼は首を傾げるだけだった。

 話題転換のためにソルーシュが先程エリゴスが漏らした“水妖族”という言葉について考え出す。


「そういえばさっきエリゴスの野郎が言っていた水妖族は、あのナズナ姫を攫おうとした奴と関係あるんですかね?」


そこであ、とナズナも舞踏会の時に襲撃してきたあの青年のことを思い出した。確か神威もあの青年のことを水妖族の若者と言っていたし、最初に手に入れた欠片が見せてくれた記憶の中でも幼いナズナと水妖族に関するものがあった。

 今更ながら、協力してくれる幼馴染と従兄に最初の欠片が見せた記憶の中の出来事を話しておくことにした。


「あの…水妖族と言えば舞踏会で接触したあの方と過去の私は、あの方の言う通り面識があったみたいなのです…」


「まあ、あれだけ必死に怒鳴っていたんだからそうだろうね」


かつてのことを思い出したのか、ヴィルヘルムは遠い目をした。



 ナズナが六歳の時に何者かに誘拐され、そこから一年間彼女は行方不明のままだった。

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