3-10

青年が手で指示した場所は昨夜と同じ個室だった。おそらく女将が配慮してくれたのだろう。女将の気遣いをありがたく思いながら三人は食卓に着く。テーブルには出来たての朝食が程よい量に盛られて並んでいた。

 食事に手をつけながらヴィルヘルムはソルーシュにフェアデルプ灯台への道順を尋ねた。


「やっぱり、街道を使うのかい?」


「途中まではな」


 一応フェアデルプ灯台に通じる街道はあるらしいが、利用する者はあの噂のせいで滅多にいないらしい。そんな街道を通って行くのは目立つのではないかとソルーシュは懸念していた。街道はあくまでも目印にして、それに沿って行く形でフェアデルプ灯台を目指すつもりだ。

 この中で誰よりも旅に慣れているソルーシュに従った方がよいだろうとヴィルヘルムとナズナは了承する。

朝食を摂り終え、腹ごしらえを済ませると三人は料金を払いこの酒場が提供している裏手の貸し馬小屋へと向かった。すでに小屋を管理する少年が二頭の馬の手綱を引いてナズナ達が来るのを待っていた。

一頭は白い毛並の馬で、もう一頭は栗毛の馬だ。少年は今回の契約主であるヴィルヘルムの姿を認めると、馬を引いて簡単に説明を施す。


「うちの馬につけてある鐙には特殊な鉱石で出来た魔法具がつけてありまして、馬をこちらの小屋に帰す場合はこの青い宝玉に手を触れながら“グランツ”と唱えて下さい」


「分かった。それでは、お借りする」


少年の手から白い毛並の馬の方の手綱を受け取り、ヴィルヘルムは颯爽と馬に跨った。背中に片手剣と盾を担ぎ、それなりに重量のある鎧を纏っているのに軽やかに馬の背に乗った従兄を見て、まるでお伽話に出てくる王子のようだとナズナが感心する。


「すごい…」


「一応、乗馬も騎士団では必須だからね」


ほんの少し照れた様子でヴィルヘルムは胸を張った。その横でソルーシュが栗毛の馬に跨り、ナズナへ手を差し出す。


「ナズナ姫、こちらへ」


「あ、はい」


とりあえずソルーシュの方へ近づくと、彼は馬上から軽々とナズナを抱き上げて自分の前に座らせた。一瞬の出来事にナズナが目を丸くする。まるで魔法みたいだ。


「すごいです!ソル!」


「でしょう?ナズナ姫、もっと褒めて下さってもいいんですよ!」


 ナズナから褒められてソルーシュは満面の笑みを浮かべて手綱を引く。馬が歩き出し、王国の北門へ通じる道を進み出した。

まだ朝が早いので出歩く者は少ない。出来ることならあの青年に会わないことを祈りながら三人は街の中を進む。

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