第3章 外の世界へ

3-1

「話がまとまったところで、旅立ちの準備を致しましょう。というわけでナズナ姫、こちらをお受け取り下さい」


 ソルーシュがどこからか取り出した箱をナズナの代わりに神威が受け取って中を改めた。一瞬だけ神威が固まり、横からナズナが覗き込んで感嘆の声を上げる。


「わあ…!」


箱の中には女性用の旅衣装一式が入っていた。入っていた白いブラウスを手に取って広げてみるとナズナの顔がさらに綻んだ。ソルーシュの贈り物はナズナの好みに当てはまったようである。

大事そうにそれを抱きしめて、満面の笑みを浮かべてナズナはソルーシュに礼を言った。


「ありがとう、ソル!」


「いえいえ。ナズナ姫の笑顔こそが何よりの報酬」


『ナズナ、さっそく着替えましょうか』


神威が浮かれるナズナの背を押す。軽い足取りで着替えに行く娘とその精霊の背中を見送りながら、ジークはソルーシュに改めて礼を述べる。


「すまないな、ソルーシュ。それにしても、随分用意がいいな」


「ああ、実は前々からナズナ姫にと用意していたのですよ。

 この舞踏会を無事に終え、晴れて自由に外を出歩けるようになったらああいう服が必要になってくるのではないかと」


 ソルーシュの言葉にジークは黙り込んだ。

もしも仮にあの舞踏会で水妖族の青年に襲撃されず、無事に終わったとしてもナズナをあまり外に出さないようにしていただろう。百歩譲っても転移魔法を使って、ジークや騎士団の目が行き届くノイシュテルン王宮くらいで、間違っても城下街に出すつもりはなかった。

 それが彼女にとって最善だと思っていた。この屋敷にいれば安全だから。

だがエリゴスの言う通り、ナズナはいつまでも幼いままではない。ジークが考えていた時よりもナズナはずっと大きくなっていた。感慨深く思いつつも、少し寂しく感じる。

いろいろな思いを込めて、ジークはソルーシュに言った。


「…娘をよろしく頼むぞ、ソルーシュ=クリシュナ」


「…もちろんです、ビスマルク公」


ジークの声音に含まれている想いを感じ取ったソルーシュが力強く頷く。彼の頼もしい返事を聞くと、ジークは鏡に手をかざして呪文を唱えた。

通信魔法の類だ、と呪文を聞いてソルーシュは悟る。鏡の向こうから響いてきた声は、ソルーシュもよく知る人物のものだ。


「聞こえるか、ヴィル」


『あ…ジーク将軍…』


「叔父上で構わん。そちらの方はどうだ?」


『はい、一応一段落ついたところです。未だあの侵入者の行方は分からないままですが』

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