2-14

「ダメです。ソル、貴方を巻き込む訳には参りません」


「だけど…!いくら神威やエリゴスがついているからと言って、あいつらを常にこっちに呼び出したままじゃナズナ姫の身体が持ちませんよ?

 貴方には精霊達だけでなく、人間の護衛も必要です!」


 なおも食い下がるソルーシュにナズナは迷う。

確かに彼の言う通りだ。ナズナはまだ召喚士としては未熟で、常時精霊達をこちらの世界に呼び出したままにしておけない。それに今まで戦いとは無縁の生活を送ってきたため、今回のような襲撃がまた起きたらどうにも出来ないだろう。

これから欠片を探すのであれば、必然的にこの家を、そしてこの国を出ることになる。旅の知識の無い箱入り娘が独りで旅をするなど、無謀にも等しい。安定しているとはいえ、不埒な輩が全くいない訳ではない。

 それより何より、彼女は筋金入りの方向音痴だ。ナズナ自身も自覚している。次の場所は欠片が教えてくれるものの、導いてくれる訳ではなさそうである。


 ソルーシュの同行を躊躇うナズナを見兼ねて、ついにジークが口を挟んだ。


「ソルーシュ、ビスマルク公である私の命令だ。娘の旅に護衛として同行しろ」


ナズナが父に抗議する前に、ソルーシュが当然とばかりに返事をする。いつもの軽い調子ではなく、彼にしてはひどく真面目な顔で応じていたのでナズナは何となく違和感を抱いた。

だがその違和感を拭うかのようにソルーシュはすぐにいつものお調子者の仮面を被っていた。


「そういう訳で、ナズナ姫のことはオレが命に代えてもお守り致しますよ」


 茶目っ気たっぷりにウィンクするソルーシュに、ナズナは素直に喜べなかった。ソルーシュは誰にでも優しい(主に女性)が、ナズナに対しては過保護なくらいである。

それを煩わしいと感じたことはないが、いつも不思議に思っていた。

一度だけ、それについて尋ねてみたことはあったが、彼は一瞬だけ気まずそうに視線を泳がせ、そして曖昧に笑ったかと思えば軽い調子ではぐらかされてしまった。何となく尋ねてはいけないと子供心に悟り、それ以来二度と尋ねることはなかった。


 それはさておき、自分のためだけに命を投げ出して欲しくないというのがナズナの本音である。ソルーシュにも未来があるのだ。

巻き込んで最悪の事態になってしまったら…ということを考えると申し訳ない。

だが父がああして命令した以上、ソルーシュは無理にでもついてくるだろう。軽そうに見えて、意外と義理堅い性格だから。

説得を諦めて、ナズナはソルーシュに向き直る。


「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。だけどどうか、自分の命も大切にして」


「…御意」


こうして、世間知らずの貴族令嬢は精霊達と商人を連れて自分の過去を探す旅へ一歩踏み出したのである。

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