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父親の優しい眼差しに笑みを返してナズナはドレスの裾を摘まみ、挨拶をした。


「おはようございます、お父様」


「おはよう、ナズナ」


 ドレスの裾を優雅に翻し、ナズナも食卓に着く。朝食を終えたところで使用人の一人が来客の報せを告げた。それを聞いてジークは立ち上がり、愛娘と共に来客者の待つ控えの間へと向かった。


「来たか、ソルーシュ」


 ジークとナズナの出迎えに扉を背にして立っていた金髪の青年がゆっくりと振り向いた。

南大陸の民族衣装を身に纏い、移動民族の証である刺青が彫られた褐色の両腕を広げて青年…ソルーシュ=クリシュナは屋敷の主人とその娘に仰々しく跪いて挨拶する。その際、彼の赤み帯びた金髪が揺れた。


「お久しぶりです、ビスマルク公。そして麗しのナズナ姫。ソルーシュ=クリシュナ、お召しにより参上致しました」


片目を閉じて茶目っ気たっぷりに挨拶をするとソルーシュはすぐに立ち上がる。

そしてナズナの方へ視線を移すとでれっとだらしなく笑った。


「まさかこのオレがナズナ姫のエスコートをする光栄な権利を手にするなんて…嬉しさと感激のあまり歌って踊り出したい気分ですね」


「そんなことよりソルーシュ、お前まだ正装に着替えていなかったのか」


 ソルーシュのいつもの軽口に呆れながらもジークは苦言を呈した。まだ舞踏会まで時間はあるのだが、ソルーシュのために仕立てた正装用の礼服がきちんと彼のサイズに合っているかどうかが知りたかった。

彼の普段の仕事は商人をしているので、呼びつけなければどこかふらふらと珍しいものを探しにあちらこちらへ行ってしまう。

 ジークの苦言にソルーシュはばつが悪そうに肩を竦め、頭を掻く。そして一礼してそそくさと控えの間から退出した。

そんな彼の後姿を見送るとジークは改めてナズナに向き直る。


「ナズナ、お前の方も準備は万端か?」


「はい、大丈夫です」


愛娘の返事にならばいいとジークは満足そうに微笑む。だが念の為に本日の段取りや注意点をもう一度娘に説明しておくことにした。

外に出られることに浮足立って、王族や貴族達の前で無礼な振る舞いをさせないように。


「今日はお前の記念すべき社交界デビューの日だ。よって、畏れ多くも今回の舞踏会の主役である。

 皆、お前のことを知りたいがために一挙一動注目している。挨拶する順番を間違えないようにな」


「はい、お父様」


これまで父に教えられたことを思い出しながらナズナは素直に返事をした。

 確か最初に挨拶するのはこの地を治める王と王妃、そしてその子供達の順番だ。

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