第19章「勇者の剣、職人の手」

玉座の間に戻ると、戦況は絶望的だった。


 リーナは傷だらけで、かろうじて立っている状態。ガルドは壁に叩きつけられ、動けない。


 魔王は無傷だった。


「くくく……これで終わりだ、勇者よ」


「まだ……終わらない……」


 リーナは聖剣を構えた。だが、腕が震えている。限界が近い。


「リーナ!」


 健太が叫んだ。


「健太……」


 リーナが振り返った。


「システムは……」


「守った。お前は魔王を倒すことだけ考えろ」


「だが……私には、もう——」


「諦めるな」


 健太は言った。


「お前は勇者だろ。聖剣に選ばれた、唯一の存在。お前にしかできないことがある」


「……」


「俺には、魔王は倒せねえ。戦闘は専門外だ。だが、お前には——お前にはできる」


 リーナは健太の目を見た。


 真っ直ぐな目。信頼に満ちた目。


「お前を信じてる。だから、立て」


 リーナは深く息を吸った。


 そして——


「……ああ」


 聖剣が、光り始めた。これまでにないほど強い光が、リーナを包む。


「何……」


 魔王が後退した。


「この光は——」


「私は、諦めない」


 リーナが言った。


「仲間がいる。私を信じてくれる仲間が。だから——私は、負けない!」


 聖剣が、閃いた。


 光の奔流が、魔王に襲いかかる。


「ぐああああッ!」


 魔王の絶叫。黒い外殻が砕け、内部のコアが露出する。


「今だ、リーナ!」


 健太が叫んだ。


 リーナは最後の力を振り絞り、聖剣を突き出した。


 刃が、魔王のコアを貫く。


「……馬鹿な……私が……敗れるとは……」


 魔王の体が崩れ始めた。


「覚えておけ、人間……私は……滅びない……いつか……必ず……」


 魔王が消滅した。


 だが、それと同時に——


 城が揺れ始めた。


「まずい!」


 健太が叫んだ。


「魔王が倒れて、城の構造が不安定になった! 崩れるぞ!」


 天井から石が落ちてくる。壁にひびが入り、床が傾き始める。


「逃げろ!」


 だが、ガルドが動けない。リーナも、立っているのがやっとだ。


「くそ……」


 健太は周囲を見回した。


 「現場監理」のスキルが、崩落のパターンを読み取る。どこが先に崩れ、どこが安全か。


「あそこだ。あの柱が最後まで持つ。あそこに移動しろ」


 メイリルがガルドを支え、健太がリーナを支える。全員で、指示された場所に移動する。


 だが、それでも限界がある。柱も、いつまでも持たない。


「どうする……」


 その時、ポップが駆け込んできた。


「おっさん! 生きてたか!」


「ポップ! お前こそ——」


「出口見つけた! こっちだ!」


 ポップが先導する。健太たちは、崩れ落ちる城の中を走った。


「右だ! 左に行くな、崩れる!」


 健太が指示を出し、全員がそれに従う。


 背後で、通路が崩落していく。


「もう少しだ!」


 光が見えた。出口だ。


 全員が、城から飛び出した。


 直後、魔王城が轟音と共に崩れ落ちた。


 砂煙が晴れると——


「……全員、無事か」


 健太が確認した。


「ああ、無事だ」


 リーナが答えた。


「私たちは——勝ったんだな」


「ああ」


 健太は崩れた城を見つめた。


「勝った」

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