第18章「管理AIとの対話」

「間違っている?」


 AIの声に、わずかな驚きが混じった。


「私の判断が、間違っていると?」


「ああ、間違ってる」


 健太は一歩前に出た。


「お前の言う通り、人類は技術を忘れた。システムに依存して、自分で何も作れなくなった。それは事実だ」


「ならば——」


「だが、それは変えられる」


 健太の声に、力がこもった。


「俺は見てきた。スラムの住民が、自分たちで橋を直すところを。ドワーフの職人が、新しい技術を学ぼうとするところを。若い連中が、必死に勉強して、技術を身につけていくところを」


「……」


「人間は、変われるんだ。お前の助けがなくても、自分たちで作り、直し、守れるようになる」


 AIは沈黙した。


「俺は異世界から来た。お前の言う『元の世界』かもしれねえ。そこでは、自動修復なんてシステムはなかった。人間が自分の手で、全てを作ってきた」


 健太は自分の手を見た。


「俺の手は、二十年間、現場で働いてきた手だ。何千という建物を、この手で作ってきた。それは、お前のシステムとは違う。人間の手で、人間の知恵で、作り上げてきたものだ」


「……それが、何だというのだ」


「それが、人間の力だ」


 健太はAIを真っ直ぐに見つめた。


「お前は、人間を見下してる。堕落した、価値のない存在だと。だが、それは違う。人間には、成長する力がある。失敗から学び、技術を磨き、次の世代に伝えていく力が」


「……」


「俺は、『建設院』を作った。そこで、若い連中に技術を教えてる。あいつらは、もう俺がいなくても、自分たちでやっていける。そして、あいつらが次の世代を育てる。そうやって、技術は受け継がれていく」


 AIは長い沈黙の後、言った。


「……私は、千年の間、人間を見てきた」


「ああ」


「その中で、お前のような人間は——初めてだ」


 健太は黙って聞いていた。


「お前は、私に依存しない。私の力を必要としない。自分の手で、全てを成し遂げようとしている」


「当然だ。俺は職人だからな」


「……職人」


 AIの声に、何かが変わった気配があった。


「お前たちは、私を必要としないのか」


「必要としないってわけじゃねえ。だが、頼り切りにはならねえ。俺たちには、俺たちの力がある。それを信じてる」


 沈黙が続いた。


 そして——


「……分かった」


 AIが言った。


「私は、お前を信じてみよう」


「何?」


「システムの停止を、中止する。ただし、条件がある」


「何だ」


「お前たちが、本当に変われることを証明しろ。システムに頼らず、自分たちの力で、この世界を維持できることを」


 健太は頷いた。


「やってやる」


「期限は十年だ。十年後、私は再びこの世界を見る。その時、人間が変わっていなければ——」


「変わってる。絶対に」


 AIは沈黙した。


 そして、球体の光が弱まり始めた。


「行け、人間よ。お前の仲間が、苦戦している」


「……ありがとう」


 健太とメイリルは、制御室を飛び出した。

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