第15章「決戦前夜——『建設院』第一期生」

魔王城突入の前日、健太は一人で王都に戻っていた。


 メイリルの転移魔法で、わずか数時間の往復だ。だが、健太にはどうしても、やらなければならないことがあった。


「師匠!」


 「建設院」の門をくぐると、若者たちが駆け寄ってきた。


 第一期生たち。スラムの橋を一緒に直したトム。ドワーフの見習い職人たち。エルフの学者志望の若者。そして、王都の商人の息子や、農村から出てきた青年たち。


 二十名ほどの生徒が、健太を囲んだ。


「お帰りなさい!」


「魔王討伐、どうなってるんですか!」


「師匠、怪我はないですか!」


 健太は苦笑した。


「一度に喋るな。聞き取れねえだろ」


 生徒たちが静かになった。


「俺は明日、魔王城に突入する」


 沈黙が落ちた。


「もしかしたら、帰ってこられないかもしれない」


「師匠……」


 トムが声を上げた。


「そんな……」


「だから、今日はお前たちに伝えておきたいことがある」


 健太は生徒たちを見回した。


 若い顔。希望に満ちた目。この子たちが、この世界の未来を担う。


「俺がいなくなっても、お前たちが技術を繋いでいけ」


「……」


「俺が教えたことを、次の世代に伝えろ。そして、その次の世代にも。そうやって、技術は生き続ける」


 健太は一人一人の顔を見た。


「お前たちは、もう職人だ。俺から学んだことを、自分のものにしている。自信を持て」


 トムの目に、涙が浮かんでいた。


「師匠……必ず、帰ってきてください」


「……ああ、そのつもりだ」


 健太は微笑んだ。


「だが、万が一ってこともある。だから、今日言っておく」


 健太は深く息を吸い、そして言った。


「ありがとう。お前たちが俺の弟子で、良かった」


 生徒たちが泣き始めた。


 健太は一人一人と握手をした。


「じゃあ、行ってくる」


「ご安全に!」


 トムが叫んだ。


 他の生徒たちも続いた。


「ご安全に!」


「ご安全に!」


「ご安全に、師匠!」


 健太は手を振り、「建設院」を後にした。


 背後で、生徒たちの声が響いていた。


 ——これが、俺の遺産だ。


 たとえ自分がいなくなっても、彼らがいる。技術は、人から人へと受け継がれていく。


 それが、職人の生き方だ。


 ◇


 ブロックの工房にも寄った。


「おう、ケンタ。明日か」


「ああ」


「……気をつけろよ」


 ブロックは素っ気なく言った。だが、その目には確かな感情があった。


「お前がいなくなったら、『建設院』は誰が見るんだ」


「お前だ」


「俺?」


「お前と、トムと、生徒たちだ。俺がいなくても、やっていける」


 ブロックは鼻を鳴らした。


「当然だ。三百年の経験を舐めるな」


「……ああ、そうだったな」


 二人は顔を見合わせ、そして笑った。


「ケンタ」


「何だ」


「お前に会えて、良かった」


 健太は驚いた。ブロックが、こんなことを言うとは。


「俺は三百年、技術だけを追い求めてきた。だが、お前に会って、『安全』という考え方を知った。技術は、人の命を守るためにある。それを、お前が教えてくれた」


「……」


「だから、感謝している。友よ」


 ブロックが手を差し出した。


 健太はその手を握った。


「俺もだ。ブロック」


 固い握手。


 言葉はそれ以上必要なかった。


 ◇


 夜、メイリルの転移魔法で、健太は魔王城の麓に戻った。


 仲間たちが待っていた。


「遅かったな」


 リーナが言った。


「悪い。やることがあった」


「『建設院』か」


「ああ」


 リーナは微笑んだ。


「お前らしいな」


 焚き火を囲んで、最後の夜を過ごした。


「明日で、すべてが決まる」


 ガルドが言った。


「魔王を倒し、システムを守る。二つの目標を、同時に達成しなければならない」


「できる」


 健太が言った。


「俺たちなら、できる」


 ポップが笑った。


「おっさん、自信満々だな」


「自信じゃねえ。信頼だ」


 健太は仲間たちを見回した。


「お前たちを、信頼してる。だから、できると思ってる」


 メイリルが微笑んだ。


「嬉しいことを言ってくれるわね」


「本当のことを言っただけだ」


 リーナが立ち上がった。


「さあ、休もう。明日は長い一日になる」


 全員が頷いた。


 健太は空を見上げた。星が瞬いている。


 ——明日、全てが決まる。


 だが、不安はなかった。仲間がいる。信頼できる仲間が。


 それだけで、十分だった。


【第四部 魔王城決戦】

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