第10章「王への提言——「建設院」の設立」
「建設院」の設立は、想像以上に大変な仕事だった。
まず、場所を確保しなければならない。王は城下町の一角に土地を与えてくれたが、建物は一から建てる必要があった。
「ブロック、基礎はどうだ」
「完璧だ。お前の指示通りにやった」
健太とブロックは、毎日現場に立った。「建設院」の建物自体が、この世界の新しい建築技術の見本となる。手を抜くわけにはいかない。
「親方、資材が届きました」
スラムの橋を一緒に直した若者、トムが駆け寄ってきた。健太に感銘を受け、「建設院」の設立を手伝うと言い出したのだ。
「よし、搬入を始めろ。置き場所は——」
「分かっています。昨日の打ち合わせ通りに」
トムは手際よく資材を運び始めた。
リーナたちも手伝ってくれた。本来の任務は魔王討伐だが、城壁崩落の影響で王都に足止めを食らっているのだ。
「健太、この梁はどこに置けばいい」
「そこの印のところだ。ガルド、頼む」
「承知した」
ガルドが重い梁を軽々と持ち上げる。さすがは元騎士団副団長、腕力は相当なものだ。
メイリルは魔法で建材の強度を高め、ポップは高所作業を担当した。盗賊スキルの身のこなしは、足場を組む仕事にも役立つ。
「なあ、おっさん」
ポップが足場の上から声をかけてきた。
「『建設院』って、何を教えるんだ?」
「まずは基本だ。測量、製図、構造力学——って言っても分からねえか。要するに、建物を安全に建てるための知識と技術だ」
「ふーん。俺にも教えてくれるのか?」
「学びたいなら、いつでも来い」
ポップの目が輝いた。
「マジか! 俺、勉強とか苦手だけど、やってみたいかも」
「苦手でも、やる気があれば何とかなる。俺だって、最初は何も知らなかった」
一ヶ月後、「建設院」の建物が完成した。
三階建ての石造りの建物。一階は実習室、二階は講義室、三階は事務室と資料室。この世界では珍しい、耐震構造を取り入れた設計だ。
「……立派なもんだな」
完成した建物を見上げ、健太は感慨深げに呟いた。
「お前の設計だ」
ブロックが隣に立った。
「俺は三百年、建物を作ってきたが、こんな設計は見たことがない。頑丈なのに、美しい」
「美しさは二の次だ。大事なのは、安全かどうかだ」
「それも含めて、美しいと言っているんだ」
健太は苦笑した。
◇
「建設院」の開校式には、王も出席した。
広場には多くの人が集まっていた。貴族、商人、職人、そしてスラムの住民たち。トムの口コミで、「建設院」の噂はスラム中に広がっていた。
「高倉健太よ」
王が壇上に立ち、健太を呼んだ。
「挨拶をせよ」
健太は壇上に上がった。大勢の視線が集まる。緊張するが、ここで怯むわけにはいかない。
「俺は——」
健太は言葉を探した。
「俺は、異世界から来た職人だ。この世界のことは、まだよく分からないことばかりだ」
聴衆がざわめいた。
「だが、一つだけ分かることがある。この世界の建物は、危険だ。今にも崩れそうなところがたくさんある」
「……」
「先日の城壁崩落で、十二人の命が失われた。俺は——それを止められなかった」
健太の声が、少し震えた。
「だが、これ以上は死なせない。俺は、この『建設院』で、人の命を守る技術を教える。この世界を、安全にする」
健太は深く頭を下げた。
「皆さんの協力を、お願いします」
静寂が続いた。
そして——拍手が起きた。
最初は一人。それが二人になり、十人になり、百人になった。やがて、広場全体が拍手に包まれた。
「よくやった」
リーナが微笑んだ。
「これで、お前の第一歩だ」
「……ああ」
健太は聴衆を見渡した。
貴族も、商人も、職人も、スラムの住民も。みんなが拍手をしている。
これが、「建設院」の始まりだった。
◇
その夜、健太はリーナと二人で話していた。
「そろそろ、俺たちは出発しなければならない」
リーナが言った。
「魔王討伐の旅を、続けなければ」
「……そうだな」
健太は頷いた。分かっていたことだ。
「『建設院』は、ブロックとトムに任せる。あいつらなら、俺がいなくても大丈夫だ」
「お前は、一緒に来てくれるのか」
「当然だ。俺は勇者パーティの建築顧問だからな」
リーナは笑った。
「師匠がいないと、困るからな」
「だから師匠って呼ぶなって——」
二人は顔を見合わせ、そして笑った。
明日から、また旅が始まる。
魔王領へ。
【第三部 魔王領への道】
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