第11話エルフのルーシェ、風の大精霊 上
....どうしてこうなったのだろう。
「監察官様、葡萄酒はいかがでしょうか」
「リンゴもございますよ」
「お体の具合はどうでしょうか」
「あっ、大丈夫です。お、お気遣いなく...」
「遠慮ならずなんでもお申し付けください」
「あっありがとうございます」
もう一度言う、どうしてこうなったのだろう。
全方位どこを見ても美女、美女、美少女、美女、美男、美女。エルフの顔面偏差値が高すぎて俺の偏差値が35くらいになってると思う。
そんな美形だらけのエルフたちに最高級のおもてなしを受けている。
.........ほんとになんでこうなったんだ?
話は1時間前に遡る。
「貴様から先に殺すことにしよう」
「うわぁ"ぁぁぁぁぁあ」
「醜く喚くな。お互いに覚悟はできてるだろう?」
風の大精霊に会うために夜の森に入った俺たちは、エルフの女に見つかってしまい戦闘になるもあっさりと敗けた。
女は俺の心臓に短刀を突き立た。皮膚は裂け、血が飛び散り、心臓に穴が開く.....はずだった。
キンッ──!!
甲高い音をたてて刃が止まった。
「なっ、なに!?」
短刀が突き刺していたのは心臓...ではなくペンダントだった。
「~っ!大精霊紋の...ペンダント...」
「大精霊紋?まさか...ありえない!こいつが?」
「本当だ!俺はアキラ、無の大精霊ラバンから監察官に任命されている。頼む!森に勝手に入ったのは謝るからミアちゃんを開放してくれ!」
「無の大精霊様が!? 馬鹿な!ラバント様の使者など聞いたことがない!!」
「信じてくれ!風の大精霊と話がしたい」
「こんなもの祈りを行えばすぐにわかる!」
《偉大なる無の大精霊ーラバント様に緑の森の民、ルーシェがご挨拶申し上げます。その御名の元、この印の真偽をお示しください》
そう女がペンダントを持ち唱えるとペンダントが白く発光し始めた。
「えっ?なんだこれ、光って」
「ほ、本物!?こいつが?.........《緑鎖》、解除──」
「ミアちゃん!!み、ミアちゃん!大丈夫?」
「ごほっ、ごほっ、、かはっ..う..ひゅっ」
「ミアちゃん!落ち着いて、息を吸って、吐いて」
「横にしたほうがいい。楽になるはずだ」
「っ!お前!お前のせいでこうなっているんだぞ!!」
「それはっ......とりあえずこの女の手当てが先だ。私たちの村に案内する。この女を運ぶのを手伝ってくれ」
「ふざけるなよ。ミアちゃんは俺が連れて帰る」
「素人が案内もなしに夜の森を人を背負って降りるのは危険だ。それに私たちの村はリーリエ様のお膝元だ」
「殺そうとしてきたお前たちをどう信じろと?」
「......私はお前たちがヤンセンの手下だと思ったから殺そうとした。しかし、お前がラバント様の使者ならば話は別だ。...先ほどの軽率な行動、すまなかった。ラバント様の使者とそのお連れ様を傷つけたなど精霊と共に生きるエルフの名折れだ。頼む!ついてきてくれ」
さっきまで俺たちを殺そうとしていた人物とは思えないほどひしひしと感じる自責の念と後悔。
「ミアちゃんは精霊を信じている。俺はそんなミアちゃんを信じるって約束したんだ......お前が精霊と共に生きる者としての矜持があるならお前を信じたい」
「頼む、連れて行ってくれ」
そうしてエルフの村に連れて行ってもらい、ミアちゃんの手当てをしてもらった。
まだ目覚めていないが命に別状はないらしくて安心した。
そして風の大精霊ーリーリエに俺たちが来たことを取り次ぐといって女―ルーシェは消えてしまった。
するとあれよあれよと果物や飲み物や肉を振舞われ、今に至るというわけか.....どーゆーこと?
「ずいぶんとくつろいでいるようだな、ラバントの使いよ」
その声が落ちた瞬間、空気が変わった。
何もないはずの頭上から、重たい圧のようなものが降ってくる。
強い風が吹き抜け、天幕の布が大きくはためいた。
果物の皿が音を立てて転がり、杯の水面が細かく震える。
エルフたちの間に緊張が走り、皆がいっせいに片膝をついた。
「リーリエ様がいらっしゃった。図が高い!お前も跪け」
「る、ルーシェ!でもどうやって」
「周りを見ればわかるだろうが!くれぐれも粗相のないように」
俺の前に進み出たルーシェの柔らかな緑の髪が風に揺れた。ふとこちらを見た濃い緑色の瞳には整った顔立ちに似合わないほどの切迫した色が宿っている。
風が、ひとつの場所に集まり始める。
木々の間を流れていたそよ風が渦を巻き、やがて、その中心に――人の形をした“何か”が浮かび上がる。
淡く光る翠の輪郭。風にほどけるような長い髪。しかし、足は地面についていない。
その姿は、どう見ても九つか十ほどの幼い少女だった。だが可愛らしい姿から発される声は威厳に満ち溢れていた。
「風の大精霊.....リーリエ.....」
そして気づく。彼女の背後、木々の間、天幕の影、空の高み――
あちこちに、淡い光が瞬いている。
あれが精霊なのか?
クス クス クス
「にんげんだ」「にんげんだよ」「かわいいね」「ひさしぶりにみたね」「おんなのこもいる」「ねぇあそぼ」「リーリエさまもあそぼ」
クス クス クス
緑色の光が縦横無尽に飛び回り、そよ風を起こす。
......なんて、なんて幻想的で美しいのだろう。
「お前たち少し静かにしろ。あの偏屈ジジイが使いをおくってくるなどにわかに信じられんな。それでお前、名はなんという」
「はい!中山....いえ、アキラ・ナカヤマです。ここ、風の国で風が弱くなっている件についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
緊張で声が裏返りそうなのを必死でおさえる。
ここが勝負だ。ここで精霊と風の国に何があったかを見極めなければならない。
はっきりいうと怖い。でも、命をかけてここまで来たんだ!!
「断る」
「.....へ?」
ことわられた? うそっ なんで?
「アキラよ、帰ってラバントに伝えろ。この件は既に決着がついておる。お前が介入する余地などないと。妾は.........既に代償を支払っている」
「代償?なんのことですか?」
「ルーシェ、彼らを麓まで送りなさい」
「リーリエ様、しかし...」
「ルーシェ!」
「っ.....承知いたしました。アキラ...」
言っていることが理解できなかった。理解したくなかった。
——このまま引き下がったら、もう二度とリーリエと話をすることは叶わない。
そんな予感だけが、胸の奥に残っていた。
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