第10話ミアと精霊、緑の森の民
ここはどこだろう。
王都ソロネのどっかであることは確かだがかなり外れまで来てしまった。
本当にこれからどうしようか....とりあえず人影のない公園のベンチにミアちゃんを座らせる。
ユキちゃんが心配しているのかピタッと寄り添って観察している。
「ミアちゃん」
「うぅ..ひぐっ..うっ」
「ミアちゃん」
「やめてっ! ....っ...う..」
「....さっきはごめん。腕、あざになってない?」
「...だいじょうぶ、です」
「そう...ほんとごめん」
沈黙が痛い。こんな時どうすればいいのかわからない。
女の子泣かせたことなんてないよ...
「アキラ様は精霊様についてどう思いますか?」
「話を聞くかぎり精霊側がいきなり人間に非協力的になったようにしかみえないな。精霊側にメリットがあまりないように思えるがよくわからない存在なら案外いやがらせとか気まぐれとかかもしれない」
「ひぐっ... 精霊と人間は契約を結んでいるのです。そんな理由で契約を破るはずがない」
「ならどうしてっ...とりあえず、緑の森にいる大精霊にも話を聞いてから考えよう。今日はもう暗くなるから宿を探して明日、森に向かおう。な?」
「は、はい..」
いったんこの後の方針を立て、ミアちゃんに手を差し伸べようとしたがユキちゃんに拒まれた。
なんだよ、そんな目で見るなよ。ロバのくせに...
あれほど苦手だった早起きも一週間ちかく続けているとつらくなくなってきた。
「......おはようございます」
「おはよう、ちゃんと寝れた?」
「....少しだけ」
朝食の硬パンを取っている時もチェックアウトする時も一言も話さなかった。
ユキちゃんは宿の外で草を食べていたが、俺たちの気配に気が付くと小さく鳴いて近寄ってきた。
いつもよりも鳴き声が静かだった。
これはこっちについてから知ったことだが、ソロネとその周辺地域は馬車の往来が盛んでタクシーのように早く移動することができる。...うちのユキちゃんは荷物扱いになるため荷馬車しか乗せてくれないのだが....
ソロネの東口から荷馬車に揺られて森をめざす。この馬車は森の近くのヤンセン商会が建設している建物に物資を届けるもののようで近くまで連れて行ってくれることになったのだ。王都の家並みは畑へ、畑は草原へと変わった。しかしまだ人の姿が多くみられるのは建設現場で働く者が多いからだろう。
ミアちゃんはずっとうつむいていてユキちゃんが騎士のようにぴったりと寄り添っている。.....昨日の発言がまずかったかもしれないなぁ
「あの、アキラ様...昨日はすみませんでした」
「えっ、いやぜんぜん大丈夫だよ」
「私!精霊様がすきなんです!わたし、わたし...精霊様を信じたい」
「....ねぇ......どうしてミアちゃんはそんなに精霊が好きなの?」
「つまらない話ですよ?」
「いいよ、俺はもっとしりたいよ。ミアちゃんのこと」
「ふふっ、ありがとうございます。そうですねこれは私が子供の時の話なんですが」
──昔、リンダさんにわがままを言って水の国と風の国の国境をまたぐ森の調査に連れてってもらったんです。自分で連れてってほしいってお願いしたのに当時6歳の私には退屈でリンダさんの忠告を無視して一人で探検しに出かけたんです。
そして当たり前ですけど迷ってしまって、道はわからないし、寒いし、お腹すいたし動けなくなっちゃって。
それで、途方に暮れていたらどこからか明るく光るなにかが近寄って来たんです。私、実際に精霊様を見るの初めてですごく驚いたんですけど同時にすごくきれいだって思いました。
それでたくさんの精霊様が並んで光の道を作ってくれたんです。帰り道はこっちだよって
その道を歩いてリンダさんの元に帰れたんですよ。
「精霊様は優しい者には優しくしてくれる。正直者には正直に答えてくれる。誠意を持つ者には誠意で返してくれる。君は今日、親切にも助けてもらったのだからいつか精霊様が困っているときに助けてあげれるような人になりなさい」ってリンダさんに教えてもらいました。
「だから私は精霊様が大好きだし、信じたいんです....」
少し強い風がミアちゃんの長い髪を揺らし去っていった。
「すごく、すごく素敵だと思う。俺はまだラバント以外の精霊を見たことないし、よくわからないけど信じてみたいって思った。君が信じる精霊を信じてみたいって」
「......ふ..ふふっ...」
「笑うなよ!ちょっと恥ずかしかったんだから!」
「ふふふっ、ありがとうございます!アキラ様、必ず私たちでこの事態を解決させましょう!」
「あぁ、もちろん!」
ここで降りてくれと言われ、お礼を言って馬車と別れたのが2時間前のこと。そこから歩きで森の麓までついたのが30分前。そして、エルフに弓を射られ草原まで引き返すはめになったのが現在18:40分の出来事である。
「ねぇ、ミアちゃん、聞いてた話と違うんだけど」
「そういう日もあります」
「無礼者以外には優しいんじゃないの?俺って監察官でラバントの使者じゃないの?弓って理由も聞かずに射られるものだっけ?」
「彼らにとってもう人間は完全に敵なのでしょう」
「思ってた以上に厳しいよね、これ...どうする?」
「どうするもなにも...それはもちろん」
「やっぱやめようよ、これはまずいって」
「シッ!声が大きい」
「グヒー」
「ユキちゃんいい子だから鳴かないで」
「夜の森を登って風の大精霊様に会うなんて危険だよ」
「なら他に方法がありますか?昼の森ではさっきみたいになるのがオチですよ。それなら警備が手薄な夜しかないですよ」
「そうかもしれないけどさ、月明かりだけじゃ足元危ないって」
「きゃあっ!」
「あぁ、ほら!自分が平地でも危ういって気づけよ」
「すみません」
「── ≪風刃≫」
「っ!≪障壁≫!」
ガキン──!
金属どうしがぶつかるような鈍い音がして爆風が巻き起こる。
今、目の前に広がるのは半透明の青白い板──ミアちゃんの≪障壁≫だ。
「アキラ様!逃げて!」
「≪風弾≫」
「≪障壁≫はやく逃げて!」
あまりの衝撃に茫然自失としていたが、ミアちゃんの叫び声に正気を取り戻す。
「ダメだ、ミアちゃんも逃げるんだ!」
「いいから!庇いきれないっ」
クソっ、俺はこの場で足手纏いでしかないのか..
ユキちゃんはすでに元来た道を走って引き返してる。
今の俺には何もできないと刺客に背を向けて走り出す。
「逃がさないっ、《緑鎖りょくさ》」
「っ!地面から蔦が!まずいっ、」
「きゃあっ、なにこれ、離れないっ!アキラ様!」
足に蔦が絡まって動けない!無様に地面に転がることしかできない自分がくやしい。
蔦は強度を増して二重三重に縛りつけてくる。
「下賤なるヤンセンの犬どもが...夜にまで山に入ってくるようになるとは」
「ヤンセン?違う!俺たちはっ」
「黙れ。ここらへんで貴様らにも見せしめが必要だろう」
美しいアルト声が夜に森に響く。月明りで照らされた影は耳が鋭くとがっていた──エルフだ!
「待って!山の民、私たちの話を聞いてください」
「もう話し合いの期間は過ぎた。貴様らの汚い言い訳はいらない。まずは貴様からだ女」
そういうとエルフは操っている蔦でミアちゃんの首をギチギチと絞めあげ始めた。
「かはっ、あっ、あ"ぁ...ひゅっ...たす....あ....」
まずい、あのエルフは本気で俺たちを殺しにかかっている。
どうにかしてミアちゃんを助け出さないと!
「やめっ、やめろおおおおお!!」
愉しむかのような女の声に頭が沸騰するような感覚に陥る。
でもどこか恐ろしいほどに冷静な俺がいる。
やるんだ。俺がミアちゃんを助けるんだ!
まず腰にさしていた短剣で足の蔦を切る。
女は予想外の俺の動きに一瞬戸惑いをみせたがすぐに魔法を発動しようとする。
「っ!≪風刃≫!」
「≪障壁≫!!」
わかっていた。すぐに魔法がくるなんてわかっていたさ!
一瞬、そう一瞬あれば魔法歴10日の俺でも先読みして対処できる。
バリンッ!!
俺の魔力が割れる音がする。魔力の破片が飛び散り、殺しきれなかった魔法が頬を掠める。
これも想定内。むしろここで臆さずに踏み込む!
この距離なら次の詠唱を行うよりも俺がこいつの懐に入るほうがはやい!!
短刀を握り直し振りかぶる。狙いは心臓、このチャンス二度はない。できる...殺せっ!
「── ≪緑鎖≫」
「なっ!」
「あはははっ、残念だったな。貴様の敗因はただ一つ、殺しを恐れたことだ。殺しを恐れていているうちは守りたいものなどなに一つ守れん」
形勢逆転。
蔦に巻きつかれて指一本動かせない。無様に地面に転がることしかできない自分が憎い。
クソっ、俺はまた何もなさずに死んでいくのか?
「貴様から先に殺すことにしよう」
「うわぁ"ぁぁぁぁぁあ」
「醜く喚くな。お互いに覚悟はできてるだろう?」
女が俺に馬乗りなって短刀を振りかぶった。
一瞬のためらいもなく胸に突き立てようとしている。
世界がスローモーションに見える。けど見えるだけ
抗うことすら許されない圧倒的な暴力の中で思った。
あっ、死んだ
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