パート1 九郎、公彦の罠にハマり、探偵になる?



「九郎!大変だ!」

と、公彦が言った。大学の食堂で、安いランチを食べていたところへ、友人の公彦が現れたのだった。

「大変?何が、だ?夏休みがなくなった!っていうのか?」

「あり得る!殺人犯として、刑務所行きになったら……」

「殺人犯?誰が?誰を殺したんだ?」

「決まっているだろう?殺人事件といえば、後藤佳奈子の事件で、犯人扱いされそうなのが、お前だよ!」

「はあ?俺が殺人犯だって?誰がそんな馬鹿な噂をしているんだ?」

「噂じゃなくて、お前を容疑者として調べるために、警察が来ているんだ!今、学生課で、お前の住所を確認しているところだ!」

「おいおい、俺は死体の発見者だけど、後藤佳奈子とは、まったく接点がないぜ!動機もなければ、な……」

「何か、お前と佳奈子をつなぐモノが出てきたんだよ!多分、手紙のようなモノが、被害者の周辺から……」

「手紙?俺は、手紙なんて書かないぜ!字が下手で、手紙を書くのは、苦手なんだ!」

「ああ、それは、知ってるけど……、お前がやってないなら、無実を証明しなくちゃならないぜ!」

「無実を証明?馬鹿らしい!俺が犯人だ!という、証拠を集めるほうが、もっと大変だろうが……」

「甘いよ!警察は、簡単に証拠を作るよ!まず、目撃者の証言。友人関係者からのそれらしい噂。周辺住民からの悪評。お前の怪しい行動を集めて、ね……。最後は、取り調べ室で尋問して、自白に追い込めば、検察送りだよ!」

「なんだって?証拠を捏造して、自白を強要して、冤罪も辞さない!っていうのか?」

「まあ、そういうことも考えられる!ってことさ!初期段階で、疑いが濃い!と思われたら、ね……」

「なら、無実を証明するしかない!か……?」

「そう!真犯人を我々が見つけるしかないよ!」

「待て、待て!お前!最初から、それが目的だったんだな?俺に探偵をさせるつもりか?」

「そうだよ!お前、探偵小説が好きじゃないか……。俺が伯父さんに、うまく言っておくよ!九郎は、名探偵『神津恭介』の親戚だって……」

(こいつ、自分が探偵をしたいだけじゃないのか……?)

「神津九郎くんだったね?」

と、公彦の伯父で刑事の綾小路昭彦が言った。

学生課の職員に呼び出しを受けて、二号館の空き部屋に案内されたのだ。その部屋を緊急の取り調べ室にしているようだった。九郎が廊下を歩いて部屋の前に来た時、若い刑事に付き添われて、部屋から、長い髪の女性が青白い顔で出てきた。どうやら、佳奈子の友人らしい。友人関係から、証言を集めているのだろう。

廊下には、制服姿の警官が見張りをしていて、九郎を一旦止めてから、部屋に案内してくれたのだ。

部屋には、長机が置かれていて、三人の警察関係者が椅子に座っている。その正面に、折り畳み椅子が一脚、少し机から離れて三人に向かい合うように置かれていた。その椅子に座るように促され、まるで、面接試験のような感じで、質問に答えることになったのだ。

「昨日は、大変だったね?死体を発見して、警察に知らせて、事情聴取を受けて……。それで、だ!今、殺された女性の周辺を調査しているんだ!まず、この写真を見てくれるかな……」

刑事がテーブルに三枚の写真を置いた。九郎の側に立っていた警察官が白い手袋をしたまま、その写真を手に取り、九郎に一枚ずつ渡して行く。

三枚とも見終わると、警察官は大事そうに、ハンカチに包んで、テーブルに置いた。

「僕の指紋が欲しいのなら、そう言ってくだされば、協力しますよ!」

「い、いや、指紋は別にいいんだ……。たぶん、不要になるはずだからね……。神津君が、事件とは関わりがない!と証明するだけだから……。しかし、写真を見て、指紋を採る手段と考えるなんて、公彦のいうとおり、君には探偵の素質がありそうだね?そこでだ!昨日、死体を見た時、君は何か感じなかったかい?そう、不自然さ、というか……」

「不自然さ?殺人事件の死体を見るのは、初めてなもので、他の死体とどう違うのかは……?あっ!そうだ!女性の髪が何故か、変に短かったな……?ショートヘアーじゃなくて、長い髪をバッサリ切ったばかりのような……、切り口が整っていなかった気がしましたね……」

「さすがだ!よく気がついたね!それと、昨日、君は、死体の女性を知らない、と言っていたが、間違いないかい?」

「はい!後藤佳奈子さんという、英文科の学生だそうですけど、面識はないと思います」

「現場周辺にいた、岡山という助手教員が顔に覚えがあって、そう証言しているところを聞いたんだね?間違いなく、死体は後藤佳奈子さんだった。ただし、生前の佳奈子さんは、ポニーテールの長い髪をしていたそうだよ!一昨日の夕方、友達と別れる時には、ね……」

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