九郎の冒険――または、『断髪殺人事件』――
@AKIRA54
エピローグ 九郎、大学生になって、死体の発見者にもなる?
1
「大学生というのは、こんなに遊んでいていいもんなんだな……」
と、神津九郎は呟いた。彼は今、十八歳。この春──196✕年──から、K大の学生になった。そして、夏休み前の午後、友人の公彦に誘われて、学生仲間とソフトボールを楽しんでいる。彼は、野球は好きだが、経験はない。背が高く、運動神経も人並み以上だから、見た目はできそうだった。ライトで八番。キャッチボールをして、チームリーダーが決めた。多少の不安が顔に出ていた。
「ライト!行ったぞ!」
チームリーダーでピッチャーをしているゼミの先輩が叫んだ。左バッターが思い切り、引っ張った打球がフライとなって飛んできたのだ。ただし、大きくフックして、ファールゾーンへ、だった。
ボールは、グランド横の古びた部室跡に飛び込んだ。代わりのボールが少ないため、そのボールを回収に九郎は部室の木戸を開けたのだ。
物置小屋と化している部室の中は、カビ臭い。しかし、その臭いの中に、九郎の鼻が、異臭をかいだ。木製のベンチの残骸の側に、異臭の元、白っぽい服を着た人間が横たわっていたのだ。
(明らかに、死体だ……。まさか、死体の第一発見者になるとは……)
※
「それで?その死体は、どんな死体だったの?男?女?若い?年寄り?自殺?殺人?病死?死亡推定時刻は……?」
と、矢継ぎ早に質問された。質問したのは、ひとつ年上だが、同じ一回生の女性だ。幼なじみに近い。中学生の頃からの友達だ。小野美雪という、かなりの美人だ。
ふたりがいるのは、学生相手の下宿屋だ。お互い、貧乏な家庭環境だから、四畳半一間の部屋で暮らしている。同じ家主の、向かい合って建っている、長屋風の二階の一室。窓から、屋根瓦を越えれば、行き来ができる。もちろん、大家の婆さんからは、禁止命令が出されている。
「若い女性!殺人!昨夜遅く!」
と、座敷の上に置かれた菓子盆のかりん糖を摘まんで、九郎が質問に対して端的に答えた。
「殺人か……?じゃあ、死因は?刺殺?絞殺?それとも、毒殺?」
「僕が見た範囲では、絞殺だね!首に紐かロープによる絞殺跡があった……。ただし、毒殺の可能性もあるよ!検死の結果次第で、ね……」
「身元は?若い女性ってことは、学生だった!ってことでしょう?」
「確定ではないけど、K大の一回生で、英文科の後藤佳奈子という娘らしい。僕は、見覚えがないんだけど、何かの講義で一緒になった可能性はある、ね……」
「殺人事件として、警察の捜査が始まったのね……。あんた、陰陽師の末裔として、何か感じなかったの?」
九郎の家系は、平安時代の陰陽師の末裔といわれているのだ。
「僕は、まだ修行中だよ!美雪さんも今は、能力を封印しているだろう?未熟なままで、術を使うと、魔道に引き込まれる可能性がある!って、ご隠居さんに言われて……。大学に行くことになったのも、ご隠居夫婦の占いの所為だから……」
九郎と美雪は、由緒ある陰陽師の元で住み込みの修行をしている。ふたりとも霊媒師の才能があるのだ。その才能を歪めないように、師匠の義父母──師匠は婿養子──に当たる先代の老夫婦が、ふたりを一般市民と同じ環境に置く期間を設けることにした。占いにより、K大に通わすことが『大吉!』と出て、十九の美雪と十八の九郎が同時に入試を受けたのだった。美雪は、すでに、霊障を祓う能力がある。しかし、それに伴う、障害が現れた。その解決方法として、採られた施策だった。
「京都府警の刑事さんが来たよ!友人の公彦の伯父さんって人が主任さんだったから、意外と優しい対応だったよ」
「これは、わたしの勘だけど、ね……、あんた、事件に巻き込まれるよ!」
「ええっ!殺人事件に巻き込まれる?美雪さんの霊感なら、間違い、ない……?」
「クロウ!いや、神津君!わたしのことを『ミユキ』と呼ばないでね!ご隠居さんの奥さま、イチさんが言ってたのよ!わたしの存在を探っている邪悪な妖(あやかし)がいる!ってね……。そいつは、『ミユキ』という、二十歳前後の女性を探している!ってことらしいのよ……」
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