第18話 静かな余波


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世界は、

確かに、平和だった。


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だが――

完全に、

元通りではなかった。


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### 現代世界


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ダンジョンが消えてから、

人々は、

「説明のつかない違和感」を、

時折、口にするようになった。


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「さっき、

 誰かに見られてた気がしてさ」


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「夢の中で、

 知らない景色を、

 歩いてた」


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それらは、

ニュースにもならず、

記録も残らない。


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ただの、

勘違い。


ただの、

夢。


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そう、

片付けられる。


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※余波

大きな現象が消えた後、

世界に残る微細なズレ。

生活に影響はないが、

完全には消えない。


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### 探索ギルド跡地


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閉鎖された施設の一室。


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埃をかぶった棚の奥で、

一つの端末が、

ひっそりと稼働していた。


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「……?」


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定期点検に来た職員が、

眉をひそめる。


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「ログが、

 一部だけ、

 消えてない……?」


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画面には、

意味を成さない数値。


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だが、

最後の項目だけは、

はっきりしていた。


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【異常収束点:1】


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「……誤作動か」


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職員は、

深く考えず、

端末の電源を落とした。


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誰にも、

報告されない。


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### 異世界


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王都郊外の丘。


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草原の中央に、

小さな石碑が、

建てられていた。


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名前は、

刻まれていない。


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ただ、

一行だけ。


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「ここに、境界を閉じた者が立った」


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訪れる者は、

ほとんどいない。


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それでも、

風が吹くたび、

石碑の周囲だけ、

草が揺れる。


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まるで、

誰かが、

そこに立っているように。


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セラは、

一人で、

そこを訪れていた。


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「……ねえ」


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「本当に、

 消えたの?」


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問いかけても、

返事はない。


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だが。


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一瞬だけ。


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胸の奥が、

温かくなった。


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「……そう」


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「なら、

 いい」


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セラは、

微笑んで、

丘を後にした。


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### 氷室竜司


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工場の帰り道。


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踏切の前で、

竜司は、

足を止めた。


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遮断機が、

降りる。


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警報音。


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その音を聞いた瞬間。


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胸の奥が、

 強く、

 反応した。


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「……っ」


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視界が、

一瞬、

揺れる。


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線路の向こう。


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見えた気がした。


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白い空間。

長い回廊。

そして――

黒い扉。


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「……気のせいか」


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竜司は、

目を擦る。


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鼓動が、

早い。


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だが、

すぐに、

落ち着いた。


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電車が、

通過する。


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日常が、

戻る。


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それでも。


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(……何かを、

 終わらせた)


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そんな感覚だけが、

胸に残った。


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理由は、

分からない。


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名前も、

思い出せない。


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だが。


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「……俺は、

 ここにいる」


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その事実だけが、

確かだった。


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### 世界のどこか


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境界は、

閉じている。


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完全に。


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だが、

“重なった痕跡”は、

消えきってはいない。


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それは、

再び開く兆しではない。


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ただの、

記憶の影。


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そして――

影は、

必ず、

光があった場所に生まれる。


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