第17話 残された者たち


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### 聖女セラ・ノアリス


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祈りの間は、

以前よりも、

ずっと静かだった。


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魔王討伐後、

聖女の役割は、

大きく変わった。


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傷ついた兵士を癒すことも、

呪いを浄化することも、

ほとんどない。


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「……平和、

 なのよね」


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セラは、

胸の前で手を組み、

小さく息を吐く。


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祈りに応える“何か”は、

もう、

はっきりとは感じられない。


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※聖女の力

世界の歪みや魔力の過剰に反応して、

強まる特性を持つ。

世界が安定すると、

自然に薄れていく。


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それでも、

彼女は祈る。


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誰に向けてか、

分からなくても。


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「……生きてる?」


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祈りの言葉に、

そんな一節が、

混じるようになった。


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返事は、

ない。


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だが、

胸の奥が、

少しだけ温かくなる。


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それで、

十分だった。


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### 武神ガルド・ゼイン


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王都郊外。


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小さな訓練場で、

剣の音が、

響いていた。


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「……遅い」


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木剣を振る若者に、

ガルドは、

容赦なく指摘する。


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「敵は、

 待ってくれない」


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「はいっ!」


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若者は、

必死に応える。


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ガルドは、

以前よりも、

教えることが増えた。


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最前線に立つ必要は、

もう、

ない。


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それでも、

剣を手放すことは、

できなかった。


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(あいつなら、

 どうした)


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ふと、

思う。


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答えは、

出ない。


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だが、

剣を振る理由は、

まだ、

残っている。


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「生き残るためだ」


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それは、

かつて、

勇者が言った言葉。


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ガルドは、

それを、

忘れていなかった。


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### 賢者ルーグ・フェルミア


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王立学院。


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資料室の奥で、

ルーグは、

古文書をめくっていた。


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「……やはり、

 記録が、

 消えている」


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勇者召喚。


境界理論。


世界修正機構。


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どれも、

断片的な記述しか、

残っていない。


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※記録消失

世界の安定化に伴い、

歪みに関係する情報が、

自動的に曖昧化される現象。


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「意図的だな……」


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世界は、

“理解されすぎること”を、

嫌う。


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それでも、

ルーグは、

書き続ける。


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真実を、

後世に残すためではない。


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「……忘れないためだ」


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誰かが、

確かに、

ここにいたことを。


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### そして――


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現代世界。


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あの地方都市。


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青年――

氷室竜司は、

小さな工場で、

働いていた。


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部品の検品。


単純作業。


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だが、

不思議と、

嫌ではなかった。


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「竜司くん、

 これ、

 お願い」


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同僚の声。


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「はい」


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自然に、

返事ができる。


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過去の記憶は、

ほとんど、

ない。


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それでも。


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重い物を持つ時、

無意識に、

腰を落とす。


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危険な機械音に、

人より早く、

反応する。


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理由は、

分からない。


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ただ、

身体が、

覚えている。


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帰り道。


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夕焼けの中で、

竜司は、

ふと立ち止まった。


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「……?」


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胸の奥が、

わずかに、

痛んだ。


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理由は、

分からない。


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だが。


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「……大丈夫だ」


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誰に向けた言葉か、

分からないまま。


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彼は、

前に進んだ。


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