第16話 その後の世界


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世界は、

静かになった。


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### 現代世界


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あの日を境に、

ダンジョンは、

一つ残らず消えた。


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出現の予兆も、

魔力反応も、

完全に観測されなくなった。


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「……本当に、

 終わったんだな」


探索ギルド本部の会議室で、

誰かが、

ぽつりと呟いた。


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ダイバーたちは、

武器を、

壁に立てかけている。


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もう、

潜る必要がない。


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※探索ギルド

ダンジョン発生に対応するため、

国家主導で設立された組織。

現在は、

解体または再編が進められている。


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街は、

日常を取り戻していた。


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壊れかけていたビルは、

補修され。


避難区域だった場所には、

人が戻る。


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ニュースは、

こう締めくくった。


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「原因不明の異常現象は、

 自然収束したと、

 政府は発表しました」


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誰も、

魔王の存在を、

知らない。


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誰も、

一人の勇者が、

世界を切り離したことを、

知らない。


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### 異世界


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魔王城は、

跡形もなく、

消えていた。


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荒野だった大地には、

草が芽吹き始めている。


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「……本当に、

 終わったのね」


セラは、

静かに空を見上げた。


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境界の歪みは、

完全に消えている。


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「勇者は?」


王国の使者が、

恐る恐る尋ねる。


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ルーグは、

首を振った。


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「消息不明だ」


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「……だが」


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「世界は、

 安定している」


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ガルドは、

何も言わず、

剣を地面に突き立てた。


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「英雄は、

 語られなくていい」


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「戻らない者を、

 飾る必要はない」


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ただ、

彼は、

その場を離れなかった。


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### 氷室竜司


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どこに、

行ったのか。


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異世界にも、

現代にも、

記録は残っていない。


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だが。


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### ある地方都市


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古い駅の、

小さなベンチ。


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そこに、

一人の青年が、

座っていた。


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「……寒いな」


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季節は、

秋の終わり。


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青年は、

コートを羽織り、

自販機の前で、

立ち止まる。


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硬貨を、

一枚。


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カラン、と音がして、

缶コーヒーが、

落ちてきた。


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「……あれ?」


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青年は、

少し首を傾げた。


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「ブラック、

 嫌いだったっけ……?」


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理由は、

思い出せない。


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だが、

なぜか。


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温かい缶を、

両手で包むと、

落ち着いた。


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胸の奥に、

かつてあった“熱”は、

もう、

ない。


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それでも。


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何かを、

失ったという感覚だけは、

確かに残っていた。


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「……まぁ、

 いいか」


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青年は、

ベンチに戻る。


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遠くで、

電車の音がした。


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日常。


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誰にも、

選ばれない人生。


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それが、

彼の選んだ、

結末だった。


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