第13話 勇者の本質


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玉座の間の空気が、

完全に変わった。


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圧力ではない。

殺気でもない。


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世界が、魔王に合わせて息をしている。


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床の赤い光が、

一斉に明滅する。


柱に刻まれた文様が、

音もなく浮かび上がった。


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「来るわ!」


セラが、

即座に結界を展開する。


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※結界

外部からの干渉を遮断する防御魔法。

強力な攻撃ほど、

展開者の集中力が試される。


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魔王は、

片手を軽く掲げただけだった。


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それだけで。


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空間が、

圧縮された。


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「――ぐっ!」


ガルドが、

膝をつく。


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「重力が……

 反転してる……!」


ルーグが、

声を荒げる。


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※空間圧縮

一定範囲の空間を、

無理やり縮める高位魔法。

防御を貫通し、

内側から破壊する。


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セラの結界が、

音を立てて軋む。


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「竜司……!」


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竜司は、

歯を食いしばっていた。


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(身体が、

 言うことを……)


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だが。


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胸の奥の熱が、

応えた。


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否定する。


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「……は?」


ルーグが、

目を見開く。


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圧縮されていた空間が、

竜司の周囲だけ、

元に戻った。


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否。


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押し返していた。


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「なるほど」


魔王が、

初めて、

感心した声を出す。


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「それが、

 お前の本質か」


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「……何の話だ」


竜司は、

荒い息を整える。


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「勇者とは、

 強い者ではない」


魔王は、

静かに語る。


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「世界にとって、

 都合のいい存在だ」


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「歪みを、

 帳尻合わせする装置」


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「そして――」


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「お前は、

 その役割から、

 一度、外れた」


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竜司の脳裏に、

一度目の召喚が、

よぎる。


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「影武者を倒し、

 役目を終え、

 帰された」


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「だが、

 世界は、

 納得しなかった」


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「だから、

 二度目が、

 起きた」


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ルーグが、

はっと息を呑む。


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「……勇者は、

 世界に選ばれる存在」


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「だが、

 竜司は違う」


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「世界に、

 選び直された存在」


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魔王は、

ゆっくりと歩き出す。


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「お前は、

 世界の修正機能を、

 自分の意思で、

 使っている」


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「だから、

 私の力を、

 拒絶できる」


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「……」


竜司は、

剣を強く握った。


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「難しい話は、

 分からない」


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「だが」


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「俺は、

 選ばれたから、

 戦ってるんじゃない」


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「帰れなかった人間が、

 向き合ってるだけだ」


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その言葉に、

セラの目が、

揺れた。


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「……竜司」


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魔王は、

一瞬だけ、

黙った。


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そして。


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「ならば」


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「その意思で、

 どこまで届くか――

 見せてもらおう」


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魔王が、

両手を広げる。


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玉座の間全体が、

闇に沈む。


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床も、

柱も、

消えた。


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残ったのは、

無数の扉。


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「試練だ」


魔王の声が、

四方から響く。


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「お前の意思が、

 本物かどうか」


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扉の一つが、

ゆっくりと開く。


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その向こうに、

竜司は見た。


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現代の日本。


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自分の部屋。

何も知らない日常。


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「……帰れるぞ」


魔王が、

囁く。


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「戦わずに、

 すべて終わらせる方法だ」


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竜司は、

その扉を、

見つめた。


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そして――

視線を、外した。


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「悪いな」


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「今回は、

 逃げない」


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次の瞬間。


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扉が、

一斉に、

閉じた。


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闇が、

砕ける。


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玉座の間が、

再び姿を現す。


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魔王は、

はっきりと笑った。


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「いいだろう」


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「ならば、

 勇者」


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「本気で、

 殺し合おう」


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魔力が、

爆発する。


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決戦は、

もはや、

避けられなかった。


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