第12話 魔王城・玉座の間


---


扉の向こうは、

静かだった。


---


広大な空間。

天井は高く、

柱は、どこまでも続いているように見える。


床には、

黒い石が敷き詰められ、

淡く赤い光が、

脈打つように流れていた。


---


「……玉座の間ね」


セラが、

小さく呟く。


---


最奥。


段差の上に、

一つの椅子があった。


---


玉座。


---


そこに、

魔王は、座っていた。


---


人の形をしている。


だが――

人ではないと、

一目で分かる。


---


角はなく、

翼もない。


それなのに、

圧倒的な存在感が、

空間そのものを支配していた。


---


「ようこそ」


魔王は、

ゆっくりと立ち上がる。


---


「二度目の勇者」


---


竜司の身体が、

無意識に緊張する。


---


(重い……)


---


※威圧

高位存在が放つ魔力によって、

相手の動きを鈍らせる現象。

訓練された者でも、

完全には防げない。


---


「……本体、

 ようやく出てきたな」


ガルドが、

低く言う。


---


「急ぐ理由が、

 あったのでね」


魔王は、

穏やかに微笑んだ。


---


「境界が、

 思ったより早く、

 壊れ始めている」


---


ルーグが、

即座に反応する。


「あなたが、

 ダンジョンを作り続けたからだ」


---


「違う」


魔王は、

首を振る。


---


「私は、

 穴を開けただけだ」


---


「広げたのは――

 人間だ」


---


一瞬、

空気が凍る。


---


「欲望」


魔王は、

淡々と語る。


---


「力を求め、

 富を求め、

 安全を理由に、

 さらに深く潜る」


---


「ダンジョンは、

 鏡だ」


---


「覗き込む者が、

 多ければ多いほど、

 世界は、

 歪む」


---


「詭弁だ」


竜司が、

はっきりと言った。


---


「始めたのは、

 お前だ」


---


魔王は、

少しだけ目を細める。


---


「始まりなど、

 どうでもいい」


---


「重要なのは、

 結果だ」


---


その瞬間。


---


魔王の姿が、

消えた。


---


「――っ!」


ガルドが、

咄嗟に前へ出る。


---


金属音。


---


衝撃。


---


ガルドの身体が、

後方へ、

吹き飛ばされた。


---


「ガルド!」


セラが、

叫ぶ。


---


床を滑り、

壁に激突する。


---


「ぐ……!」


ガルドは、

歯を食いしばり、

立ち上がろうとする。


---


「……一撃で、

 この威力か」


ルーグが、

息を呑む。


---


※初撃

魔王が放つ、

試すような一撃。

本気ではない。


---


竜司は、

前へ出た。


---


剣を、

強く握る。


---


(速い……

 見えなかった)


---


「勇者」


魔王の声が、

すぐ背後から聞こえる。


---


竜司は、

反射的に振り向き、

剣を振る。


---


だが。


---


空を、

斬った。


---


次の瞬間。


---


腹部に、

強烈な衝撃。


---


「――っ!」


---


竜司の身体が、

宙に浮き、

床に叩きつけられる。


---


肺から、

空気が抜けた。


---


「竜司!」


セラが、

即座に回復魔法を放つ。


---


※回復魔法

生命力を、

魔力で補う技術。

致命傷でなければ、

即座に再生できる。


---


「……これが」


魔王は、

竜司を見下ろす。


---


「現時点の、

 差だ」


---


ルーグが、

歯を噛みしめる。


「……予想以上ね」


---


「だが」


魔王は、

竜司に視線を戻す。


---


「悪くない」


---


「二度目の勇者としては、

 十分だ」


---


その言葉は、

評価だった。


同時に――

侮辱でもあった。


---


竜司は、

ゆっくりと立ち上がる。


---


血を、

拭う。


---


「……前より、

 マシか」


---


魔王が、

わずかに笑った。


---


「ほう」


---


「なら、

 次で、

 確認しよう」


---


玉座の間に、

魔力が、

渦を巻く。


---


本気。


---


それが、

誰の目にも、

はっきりと分かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る