第11話 歪みの回廊


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落下している感覚は、

なかった。


だが――

進んでいる実感も、ない。


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白い空間の中で、

竜司たちは、

歩いているはずだった。


足は、確かに前へ出ている。

それなのに、

距離という概念が、存在しない。


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「……時間が、

 引き延ばされている」


ルーグが、

慎重に言葉を選ぶ。


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※時間の引き延ばし

魔力によって、

体感時間と実時間がずれる現象。

精神への負荷が大きい。


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「嫌な場所ね」


セラが、

小さく肩をすくめた。


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「静かすぎる」


ガルドは、

剣から手を離さない。


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竜司は、

黙って前を見ていた。


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白い壁。

白い床。

白い天井。


影すら、

存在しない。


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(……近い)


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胸の奥の熱が、

はっきりと、

意思を持ち始めていた。


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その時。


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「――氷室竜司」


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声が、

響いた。


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四方八方、

どこからでもない。


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セラが、

即座に杖を構える。


「誰!?」


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「……来たか」


ルーグが、

低く呟いた。


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「魔王だ」


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声は、

笑っていた。


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「二度目だな、勇者」


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竜司は、

足を止めた。


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「俺を、

 知っているのか」


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「当然だ」


声は、

楽しげに続ける。


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「一度目は、

 よくできた芝居だった」


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竜司の、

拳が震える。


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「……影武者の話か」


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「そうだ」


魔王は、

あっさりと認めた。


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「お前は、

 役目を果たした」


「だから、

 帰した」


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セラが、

声を荒げる。


「それで、

 何万人もの命が、

 危険に晒された!」


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「数字で、

 命を語るな」


魔王の声は、

冷ややかだった。


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「世界とは、

 そういうものだ」


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ガルドが、

一歩前に出る。


「なら、

 俺たちは――」


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「無駄だ」


魔王の声が、

割り込む。


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「この回廊では、

 戦えない」


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白い空間が、

わずかに、

歪んだ。


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竜司の視界に、

別の光景が、映し出される。


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現代の街。


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ダンジョン。

崩れかけたビル。

逃げ惑う人々。


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「……!」


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「見えるだろう?」


魔王は、

囁くように言う。


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「お前が、

 ここへ来たせいで、

 境界は、

 さらに薄くなった」


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「違う」


竜司は、

歯を食いしばる。


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「原因は、

 お前だ」


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「本当に、

 そうか?」


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一瞬。


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竜司の脳裏に、

記憶が流れ込む。


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一度目の召喚。

魔王城。

影武者を、

倒した瞬間。


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歓声。

安堵。

そして――

強制送還。


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「勇者は、

 役目を終えた」


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あの言葉。


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「……」


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「お前は、

 疑わなかった」


魔王は、

淡々と告げる。


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「だから、

 世界は、

 こうなった」


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セラが、

竜司の手を掴む。


「違う!」


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「あなたは、

 悪くない!」


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竜司は、

ゆっくりと、

息を吸った。


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「……確かに」


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魔王の声が、

わずかに、

弾む。


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「ほう?」


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「俺は、

 疑わなかった」


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竜司は、

顔を上げる。


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「でも」


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「だから、

 今度は、

 最後まで行く」


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白い空間が、

大きく、

揺れた。


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「……ほう」


魔王の声から、

余裕が消える。


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「面白い」


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ルーグが、

静かに言った。


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「精神干渉を、

 跳ね返した」


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※精神干渉

相手の記憶や感情に、

直接触れ、

判断力を鈍らせる魔法。


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「行けるわ」


セラが、

強く言う。


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ガルドは、

剣を掲げた。


「話は、

 終わりだ」


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白い回廊の奥に、

黒い扉が、

現れた。


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「その先が、

 本体だ」


ルーグが、

断言する。


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扉の向こうから、

重圧が、

流れ出してくる。


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「歓迎しよう」


魔王の声が、

最後に響いた。


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「本物の、

 終わりを」


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竜司は、

一歩、踏み出す。


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剣を、

構えた。


---


「今度こそ、

 終わらせる」


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白が、

闇に変わる。


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決戦は、

扉の向こうにあった。


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