第10話 魔王城への最短路


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地鳴りは、

一定のリズムを刻んでいた。


鼓動のように。

世界そのものの、心音のように。


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「……近い」


ガルドが、低く言う。


視界の先。

歪んだ大地の向こうに、

黒い影が見え始めていた。


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あれが――

魔王城。


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「だが、正面から行けば」


軍司令官が、慎重に言葉を選ぶ。


「軍を含め、

 相当な被害が出る」


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「それ以前に」


ルーグが続ける。


「時間が、ない」


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竜司は、

胸の奥の感覚を探った。


熱が、

以前よりもはっきりしている。


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(境界が、

 もう限界だ)


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「……最短路がある」


竜司は、

ぽつりと呟いた。


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全員の視線が、

一斉に集まる。


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「それは?」


王国軍の誰かが、

思わず尋ねた。


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竜司は、

地面に剣先を向ける。


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「ダンジョンと、

 同じだ」


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ルーグの目が、

見開かれた。


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「まさか……」


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「魔王城は、

 世界の歪みの中心だ」


竜司は、

静かに言葉をつなぐ。


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「だったら、

 ダンジョンと同じ“抜け道”がある」


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※最短路

ダンジョン内部で見られる、

空間を歪めた近道。

通常の地形を無視して、

核心部へ到達する。


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「理論上は、可能だ」


ルーグが、

すぐに理解した。


「だが……

 人間の身体が、

 耐えられるかどうか」


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「俺は、行ける」


竜司は、

即答した。


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「問題は、

 誰が一緒に行くか、だ」


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セラが、

迷いなく一歩前に出た。


「私も行く」


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「聖女は、

 後方支援の要だ」


司令官が、

慌てて止める。


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「だからよ」


セラは、

真っ直ぐ竜司を見る。


「あなたが倒れたら、

 すべて終わる」


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「……」


竜司は、

小さく息を吐いた。


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「俺もだ」


ガルドが、

短く言った。


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「武神まで失えば、

 軍の士気が――」


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「関係ない」


ガルドは、

それ以上を言わせなかった。


「ここで、

 終わらせる」


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ルーグは、

しばらく黙っていた。


やがて、

眼鏡を押し上げる。


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「……三人だけで行くのは、

 無謀だ」


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「だが」


ルーグは、

竜司を見る。


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「理論を理解している者が、

 一人は必要だ」


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「来るのか?」


竜司が、

問い返す。


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「当然だ」


ルーグは、

苦笑した。


「ここまで来て、

 観測者で終わるつもりはない」


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こうして、

決まった。


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最短路突入班

氷室竜司

セラ・ノアリス

ガルド・ゼイン

ルーグ・フェルミア


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「軍は、

 通常ルートで進軍を続ける」


司令官が、

歯を食いしばる。


「時間を稼ぐ」


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「頼む」


竜司は、

深く頭を下げた。


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準備は、

ほとんど要らなかった。


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竜司が、

地面に剣を突き立てる。


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胸の奥の熱を、

解放する。


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空間が、

歪んだ。


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「……来るぞ」


ルーグが叫ぶ。


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地面が、

裂ける。


そこには、

闇ではなく――

奥行きのない白があった。


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「ダンジョンの、

 入口と同じだ」


セラが、

息を呑む。


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「入ったら、

 戻れないわね」


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「戻る必要はない」


竜司は、

白い裂け目を見つめる。


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「魔王を倒せば、

 すべて終わる」


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四人は、

視線を交わす。


言葉は、

必要なかった。


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最初に踏み込んだのは、

竜司だった。


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次の瞬間。


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上下の感覚が、

消えた。


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音が、

遠のく。


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世界が、

一枚の紙のように、

折り畳まれる。


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(……これが)


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ダンジョンの、

核心。


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竜司は、

理解した。


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ここは、

魔王へと続く最短距離。


そして――

逃げ場のない、

一本道。


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彼らの姿は、

光の裂け目に飲み込まれ、

完全に消えた。


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その直後。


現代世界の、

複数のダンジョンで。


同時に、

異変が観測された。


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「反応、収束中……?」


「いや……

 中心に、

 一点集中してる!」


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すべてが、

一つの場所へ向かっていた。


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魔王城。


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決戦は、

もう始まっている。


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