第9話 崩れ始める世界の境界


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進軍を再開してから、

空の色は、明らかに変わっていた。


雲は低く垂れ込み、

動きが、不自然に遅い。


「……重いな」


ガルドが、短く呟く。


「空気が、だ」


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「魔力濃度が、

 上がり続けています」


ルーグは、

小型の測定具を確認する。


「このまま進めば、

 周囲の法則そのものが、

 歪み始めるでしょう」


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※法則の歪み

魔力が過剰になることで、

重力や時間感覚が不安定になる現象。


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竜司は、

胸の奥の感覚に、意識を向けていた。


脈打つような熱。


第6章で感じた、

ダンジョンとの共鳴と、同じもの。


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(近づいてる)


魔王に。

そして――

二つの世界が、

最も近づく場所に。


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その時。


「……?」


セラが、足を止めた。


「今、何か……」


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一瞬。


景色が、

揺らいだ。


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目の前の荒野に、

“別の風景”が、重なった。


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アスファルト。

白線。

街灯。


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「……道路?」


竜司は、思わず声を漏らす。


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次の瞬間、

風景は消え、

元の荒野に戻る。


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「見えた?」


ルーグが、即座に問いかける。


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「ああ」


竜司は頷く。


「一瞬だけ……

 現代の景色が、重なった」


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セラが、息を呑む。


「境界が、薄くなっている……」


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その頃。


現代世界。


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地方都市の外れ。

工業地帯の一角で、

異常が発生していた。


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立ち入り禁止区域の中央に、

巨大なダンジョンが出現していた。


だが――

いつもとは、違う。


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「壁が……揺れてる?」


現場に駆けつけたギルド職員が、

困惑した声を上げる。


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ダンジョンの入口から、

風が吹き出していた。


冷たく、

乾いた風。


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「……砂?」


足元に、

黒い砂が溜まっていく。


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それは、

異世界の荒野で見られるものと、

酷似していた。


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「まさか……」


職員の一人が、

青ざめる。


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ダンジョン内部。


壁の結晶が、

不規則に点滅している。


空間が、

安定していない。


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※異常ダンジョン

通常のダンジョンとは異なり、

外部の世界と部分的に重なる現象を起こす。


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異世界。


竜司たちは、

足を止めていた。


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「間違いない」


ルーグが、断言する。


「境界が、

 崩れ始めている」


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「原因は?」


セラが、問う。


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「魔王と、竜司だ」


ルーグは、

二人を結ぶように視線を動かす。


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「正確には――

 二度召喚された勇者が、

 魔王に近づきすぎている」


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竜司は、

拳を握る。


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「俺が、

 近づかなければいい?」


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「いいや」


ルーグは、首を振る。


「それでは、

 状況は悪化するだけだ」


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「境界が不安定なまま、

 魔王が生き続ける」


「それこそ、

 最悪の結末だ」


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ガルドが、低く言う。


「つまり……」


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「止めるなら、今しかない」


ルーグは、はっきりと言った。


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その瞬間。


竜司の視界に、

また風景が重なった。


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今度は、

より鮮明だった。


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現代の街。

人々の姿。

そして――

ダンジョンの入口。


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(……見えてる)


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「竜司!」


セラが、

彼の肩を掴む。


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「大丈夫だ」


竜司は、

ゆっくり息を吐く。


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「分かった」


彼は、前を見る。


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「俺が、

 鍵なんだな」


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ルーグは、

静かに頷いた。


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「魔王と勇者」


「この二つが揃った時、

 世界は、

 完全に繋がろうとする」


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「なら」


竜司は、

剣を握り直す。


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「繋がる前に、

 切る」


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その言葉は、

単純だった。


だが――

その重さを、

誰もが理解していた。


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遠くで、

地鳴りがした。


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それは、

魔王城が、

近いことを告げていた。


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