2、ペアリング。

 正直わたしにも…学(まなぶ)くんとつきあっていて…恋人関係から逃げたいと思うときもあるんだよ……。

 べつに学くんの事を疑っているわけではないんだよ……。

 ただ……学くんはカッコいいから…他の人にとられてしまうんじゃないかって…いつも心配で……。


 だけど…学くんを感じていたい……学くんを失いたくない……わたしを…みていてほしいから……ーー



 夕方。

 その日オレは…副業のアルバイトで、コンビニの夕方勤務に入っていた……。

 そんなとき、同じくコンビニの夕方の同じ時間帯のシフトに入っていたアルバイトの美咲さんが、重たそうにコンビニの業務のにもつを運んでいた……。

「あ…オレが運びますよ……」

「あ、ありがとう……。重たいから気をつけてね、よいしょ……」

「ああ……」

 オレには彼女がいるからと…極力、美咲さんの手には触れないようにと配慮をしながら…オレは美咲さんからにもつを受けとった……。

「重……」

 にもつは本当に重かった……。

「優しいね、学くん……」

「いや…仕事ですから……」

「そっか……。学くんのその右手の薬指のリング…学くん、彼女いるもんね……」

「ええ……」


 翌日の朝。


 執筆は、孤独のたたかい、か……。


 オレは自宅のマンションの五階にある部屋の中で、空がまだ明るくなる前の早朝から早起きをして、小説の執筆をしていた。

 オレは部屋の置き時計で、現在の時刻を確認した……。

 午前七時三十六分……。

 オレは小説のグランプリに出す原稿の執筆などもするけれど…今現在はおもに、複数のタイトルで連載もしている、誰でも小説の投稿が可能なウェブ小説サイトでの小説の執筆に集中していた……。

 何タイトルかは、そのジャンルでの週間ランキングでは、100位以内には入っていたりする。

 だけど今はまだ、食べていけるだけの収入には至ってはいない…副業も、たまにしながらで…というのが、現状だった……。

「ふー……」

 オレはきりのいいところで、椅子に腰掛けたそのままの姿勢で、ぬるくなったコーヒーを片手に、かるく休憩をした……。

 レースのカーテン越しに、外の様子を伺った…。

 窓の外では、チュンチュンと、小鳥のさえずりが聴こえていた……。

 今日も一日、天気が良くなりそうだな……。

 明るくなった空にはまだ、月も白くでているだろうか……。

 三日月は、月(ルナ)のウインク。

 もしかしたらオレは、ルナに誘惑をされていたりして……。

「……」

 まあ彼女がいる時点で、浮気はする気はもうとうないけどな……。

 オレは自分勝手にそういう事を考えながら…

「…8時前か……。そろそろだな……あかりからの、おはようメール……」

 そう思った……。


 ブブ。


「! きたかな、あかりからの、おはようメール」

 オレの携帯端末がなった……。

 オレには年下の、つきあいはじめた彼女がいる。

 その彼女の名前は、あかり。

 毎日いつもこの時間くらいに、朝起きてからの彼女からの朝のおはようメールが送られてくる。

 何故オレから先に朝のおはようメールを彼女に送らないのかというと……彼女が寝ているだろうときにオレが先におはようメールを送っていたら、彼女が起きてそのメールをみたときに、起きた早々、オレへのメールの返信に対して、変に気を遣わせてしまうんじゃないかと思って…それでだった……。

 だから、オレもおはようメールを彼女に送りたいけれど……彼女が起きてからおはようメールを送ってくるまで待っていたのだった……。

 オレは携帯端末を手にとり、メールの受信ボックスを確認してから、今きたばかりの彼女からのメールを見た。

「おはよう。今日は休日だね」

「そうだな」

 オレは、いつもの彼女の絵文字にほころびながら…どう返信しようかと考えていた……。

(あかり……。いつも一日に何通もメールを送ってくれて……。口では言わないけど…かまってほしいんだろうな……。最近のオレは…執筆のほうが忙しくて…なかなかあかりと会う事が…できていないから……)

「……」

 よし、とオレはそう思いながら…メールの返信をした……。

「おはよう、あかり。そうだな、今日は休日だな……。ちなみに今日、今から会えるか? よかったらこれから外ででも朝ごはんでも一緒に食べにいかないか? オレの家、何もないから……。今日一日一緒にいないか?」

 執筆業は、自分で休みの日を決めてとる事ができる自由業。

 だからオレは、今日は一日、あかりと一緒にいよう、とあかりにメールした。

 数分後…。

「うん、いいよ。そしたら…いつもの待ち合わせ場所の駅前で、待ってるね」

「ああ、わかった。すぐに行くから」

 オレはそうメールの返信をすると…手早く出掛ける身支度を整えて、家を後にしたのだった……。


 その日の朝、駅前。

 あかりが到着した朝の駅前には、何人かの人が佇んでいた……。

「学くんは…もう来ているかなー……」

 駅前に着いたあかりは、さっそく学をさがして、辺りを見回してみた……。

 だけど…

「学くんはまだ…来てはいなかったか……。そりゃそうだ…駅にはわたしの家のほうが近いんだもん……」

 学はまだ、待ち合わせ場所には…到着してはいなかった……。

「だけど…嬉しいなー……。今日は一日、学くんと一緒だよ……」

 それでも…学くん、まだかなー、とあかりが逸る気持ちで学をさがして、駅前周辺をキョロキョロとしていると……。

「カノジョー可愛いねー…今暇ー?」

「え?」

 あかりが駅前で学を待っていると、そこに、二人組の男の人達が現れた……。

「え、わたし? ……今わたし…彼氏と待ち合わせをしているんですけど……」

「本当に?」

「本当ですよ。ほら、学くんとのペアリングもあるし……」

「そうなの? その指輪、ただ単に、ただの男よけでしているだけなんじゃないの?」

「そんな…違いますよ」

 そんな二人組の男の人達に、あかりが困っていると……。

「あ…あかり……」

 駅前で学を待っているあかりを、駅前に到着した学は遠目に見つけたのだった……。


(なんだ? …あの人達……)


 学は予期せぬ事態に少し不安になって…緊張していた……。

「いいじゃんカノジョ、オレ達と一緒にカラオケに行こうよ」

「え、あ…わたし……」

 あかりは、右手薬指にしている、学とのペアリングを…強く握りしめた……。


 あかり…このペアリングは、あかりとオレのお互いが、いつもすぐそばにいるという…想いの証だよ……ーー


(学、助けて)


「待ったか?」

「!?」

「あ…学、くん……」

「すみません…この人、オレの彼女なので……」

 学はそう言うと、あかりと二人組の男の人達の間に割って入っていった……。

 あかりも学のうしろへと移動して、学の背中に寄り添った……。

「大丈夫か? あかり……」

 学はあかりを心配して気遣った……。

「うん……」

 そんな学に、あかりは安心して言った……。

「なんだ…彼氏と待ち合わせって、ほんとだったのか……」

「行こうぜ」

 二人組の男の人達は去っていった……。

「……行ったか……」

 ふぅ、と学は安堵のため息をはいた。

「……ありがとう、学くん……」

「いや……」

「学くんの彼女、って……学くんにそう言ってもらえて…嬉しかったよ……。やっぱり学くん……カッコいいね……」

「あかり……」

「本当はね、学くん……。学くんのそういうとこ、他の女の人にはしてほしくないなって……わたしにだけ…優しくしてほしいなって思ってて……。こう言うとわたし……なんだか嫌な女みたいだね……」

「あかり……」

「……」

「あかりにだけだよ」

「え」

「オレがこういうふうに接するのは、オレの彼女である、あかりにだけだから……」

「どうして…? 学くん…冷たい人だと思われちゃうよ……」

「優柔不断になるからな……」

「優柔不断……」

「ああ……。それで相手の女の人が、もしもオレの事を好きにでもなったりしたら…よくないと…思うから……。だから…だな……。オレが動かなくても…その人に好意を持っている誰か一人は…その人のすぐそばにいるだろうからな……。その人がその誰かの事に気がついている、気がついていないは関係なしに……。こう言うとオレ……なんだか自分がモテるとカン違いをしている人みたいだな……」

「うふふふ…そうだね……。……そっか……。ありがとう……学……」

「ああ」


 あかりは人懐っこくて…さみしがり屋な彼女……。

 オレには…こんなに可愛い彼女がいるのに…他の女の人にいったら……バチがあたるな……。


 ちゃんとしよう。

 がんばろ。


 オレはそう…あらためて思うのだった……。

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