破滅願望の生誕 ❸

 ───


 気がついたとき、天井がなかった。


 正確には、天井があったはずの場所が、もう天井じゃなくなっていた。

 瓦礫の向こうに、灰色の空が見える。


 ……おかしい。


 自分は、動いていない。

 体育座りのまま、同じ場所にいる。


 なのに、周りだけが崩れている。


 壁は倒れ、床は割れて、通路だったはずの場所は瓦礫の山だ。

 でも、自分の周囲だけ、妙に形が残っている。

 埃も、ここだけ薄い。


「……バグかな」


 思ったより、声が出た。

 震えていない。


 判定がズレたのか、処理が途中で止まったのか。

 ゲームなら、たまにある。

 珍しくない……はず。


 立ち上がると、足元の瓦礫が音を立てた。

 遠くで、何かが崩れる音がする。


 外が、騒がしい。


 ……連れてきてくれた人、大丈夫かな。


 自分のせいで仕事を増やしてしまった。

 もし、巻き込んでいたら。


 確認しに行こう。


 牢屋から出ても、怒られないよね。

 非常時だし。

 規則より、状況が優先されるはずだ。


 恐る恐る、歩き出す。


 廊下だった場所は、迷路みたいになっている。

 何となく、感覚で進む。

 でも、誰とも出会わない。


 避難しているのかな。

 もう、みんな外に――


 ……もしかして。


 胸の奥が、重くなる。


 もしかして、自分のせいかも。


 違うかもしれない。

 偶然かもしれない。

 でも、自分が来た場所は、いつもこうなる。


 謝らないと。


 そう思って、外に出た。


 ――都市が、壊滅していた。


 建物は倒れ、道は裂け、城壁は崩れている。

 人の姿は、ほとんど見えない。


「……やっぱり」


 いつもだ。


 自分が来たから、ここも壊れちゃったのかも。

 やっぱり、自分なんか生きてる価値ない。


 責任が取れるかも、分からない。

 でも、早くいなくならないと。


 自分がいたら、こうなっちゃうのかも。


 とにかく、終わらせよう。

 自分自身を。


 ……ひとりにならないと。


 そう思って、歩き出した。


 でも、体が言うことを聞かない。

 足が重い。

 視界が、少し暗い。


 無理をしたんだと思う。

 気づいたときには、地面が近かった。


 倒れる。


 ――次に感じたのは、揺れだった。


 硬い板の感触。

 軋む音。

 誰かの声。


「生きてる人間、連れていくぞ!」


 返事をする前に、体が持ち上げられる。

 了承なんて、取られない。


 気づいたら、荷台の上だった。


 ……ああ。


 どこに、行くんだろう。


 自分が乗ったせいで、荷物が一人分、増えている。

 身体も、小さいわけじゃない。


 小さい子なら、二人は乗れたと思う。


 自分なんかが助けられるなんて。


 それが、どうしようもなく、苦しい。


 視線を逸らして、何も見ないようにした。

 揺れに身を任せる。


 自分は、ただの荷物だ。

 それで、いい。


 そう思わないと、耐えられなかった。




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