軍師

「な、何をしている!? 兵士たち! 早く来い、早く!!」


壇上で絶叫するキューブリック公爵。しかし、その呼びかけに応じる者は一人として現れない。


コウとアイリスとは別のルートから屋敷に忍び込んだリュウメイは、冷徹な瞳でその光景を眺めながら、独り言を呟いた。


「……当然、コウさんが舞台に上がればキューブリックは警備の増援を呼ぶ。対策、僕たちが何もしないはずないよね?」


ーーーーーーーーーーーーーーー


キリコ率いるハナブサ劇団のメンバーは、作戦前リュウメイから無理難題を押し付けられた。


「キリコちゃん。舞台の太鼓と雷のタイミング、『1分1秒の狂いなく』進行できる?」


キリコはリュウメイに向かい、はぁ?と言う。


「一秒のズレも許さないなんて、僕や団員に死ねって言うんですか?」


「うん!じゃないと僕ら、本当に死んじゃうから♪」


「……はぁー、酷いよリュウメイさん。ああ、今日も徹夜かー」


リュウメイは信じていた。ハナブサキリコという天才を。


舞台の始まりから太鼓の演出が始まるまで18分36秒、リュウメイはそれまでの間に、有事の際会場に駆けつけられそうな兵士の位置を把握。


太鼓の音に合わせて、1人、2人、3人、4人


現在舞台開始から42分11秒、次の太鼓までは8分22秒、雷までは18分53秒


リュウメイは一人ずつ確実に兵士を処理していった。もちろん倒した兵士たちは、誰にも見つからない場所へと素早く隠蔽。


作戦開始からコンマ1秒の狂いもなく、頭の中で時間を数え、任務を遂行。

コウが舞台に現れた時には、キューブリックが呼び出せる兵士は一人もいなくなっていたのである。


ーーーーーーーーーーーーーーー



コウの登場で、会場が混乱に包まれた。

ゼンジロウからアイリスに指示が飛ぶ。


『アイリス、金庫の作業はもうおしまいだ。取った物を持って約束の地点へ向かえ』


「ラジャー!」


事態の悪化を悟ったキューブリックは、焦燥のあまり「ピーッ!」と、高音の犬笛を吹き鳴らした。


普通の人間には聞こえない特殊な音。それは、彼が多額の報酬で雇った凄腕の傭兵団『猟犬』を呼び寄せるための合図だった。


「猟犬にかかれば、こんな男一人、一瞬で倒せるはずだ……!」


……。

……。


どういう訳だ。いくら待てど『猟犬』が現れない。


それもそのはず。2時間前、屋敷の外ではすでに「もう一つの制圧」が終わっていたのだ。

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