シンクロニシティ・ショー

ハナブサ劇団の舞台、キリコの演技は凄まじいものであった。

会場にいる全ての貴族が、彼の一挙手一投足に目を奪われ、息を呑む。

主催者のキューブリック公爵でさえ、演技に見惚れていた。


物語はスリリングな展開を見せ、会場には大きな音が響いた。

キューブリックはパーティ前のキリコとのやり取りを思い出していた。

キューブリック邸に、劇団が用意した見慣れぬ小道具が並べられた。


「……ほう。これは太鼓か?見ない形だな」


「はい。これは『和太鼓』と申しまして、私の知人の国から仕入れた一品でございます。……少々、叩いてみましょうか」


キリコはバチを手に取り、ドンドンと力強く太鼓を鳴らして見せた。


「おお、腹に響く良い音だな!」


「左様でございます。目玉の演出の一つでございますので、どうぞお楽しみに」


 もちろん、この太鼓はただの楽器ではない。 やがて演劇が盛り上がりを見せると、音楽に合わせて激しい太鼓の乱れ打ちが始まった。 ――ドコドコドコ、ドン! ドンドコドコ、ドドン!! 会場のボルテージが最高潮に達するその裏で、通信機が密かに震える。


「……よし、太鼓が始まった。A班、行け」


『了解』


ドシャァァン! と太鼓の轟音に合わせ、キューブリック邸の壁が粉砕された。 ハンマーよりも硬いコウの拳が、正確に外壁をぶち抜いたのだ。


「コウさんの手の方が硬いって、一体どういう構造なんすか……」


「グダグダ言ってないで手を動かせ。太鼓の時間は限られているんだ」


「はーい」


コウとアイリスは壁を壊し、素早く屋敷へと潜入する。


邸宅に入るとすぐに二手に分かれる。


事前に調べていた警備の手薄なルートを選んで疾走するのはアイリス。


彼女はシズクから渡された「摩擦係数ゼロ」の液体を靴の裏に塗りたくっていた。


「すごい、これ! 本当に滑るように走れる!」


氷の上を行くような超スピードで、アイリスは金庫室へと突き進む。立ち塞がる少数の見張りも、練習の成果を見せつけるように『ヨーヨー』と言われるシズクの作った不思議な道具で一撃で気絶させていった。


もちろん、屋敷の異変に気づきそうになる貴族もいたが、そこはサリーの独壇場だ。


「ん、何か今音がしなかったか?」


「あら、どうかされたんですか……?」


様子を見に行こうとした貴族に、妖艶なドレスに身を包んだサリーが微笑みかける。


「あ、ああ。別に何も……それより貴方は……」


鼻の下を伸ばした貴族の男を、妻と思われる気の強そうな女が目を吊り上げて引っ張る。


「あなた!何やってるのよ!」


見張りの兵士達もそうだ。

会場全体を見渡し、仲間のいる場所に向かうであろう兵士を見つけると。


「ごめんなさい。お酒を一杯、持ってきてくださる?」


そう囁かれれば、見張りの兵士たちでさえ彼女のペースに飲まれるしかなかった。


通信機からサリーの落ち着いた声が届く。


『ゼンジロウ会場はいい調子よ。そろそろ「あれのシーン」だからアイリスに伝えて』


「OK。アイリス、合図を送る。3、2、1……今だ!」


舞台上ではキリコが、雨降る夜の決闘シーンを熱演していた。


カッ! と眩い光が弾け、バリバリバリィィン!!


と凄まじい稲妻の音が会場を震わせる。


その瞬間、シズク特製の「局部爆弾」が金庫を粉砕した。

舞台を振動させる装置までもが連動し、爆発の衝撃を完璧に演出の一部として溶け込ませる。


「さて、お金は頂いていきますね」


アイリスが手際よく金庫の中身を袋に詰め始めた頃、舞台はいよいよ終幕へと向かっていた。 キリコ扮する勇者が、見事に「愚かな盗賊」を打ち倒す。


「やりました! 王様、勇者様!」


キリコが勝利のセリフを叫び、幕が下りようとしたその時だった。


舞台袖から、不気味な仮面を被った黒装束の男が姿を現す。


そのあまりに禍々しい姿に、会場から悲鳴が上がる。


「な、なんだあいつは? 演劇は終わりじゃないのか?」


「まだ余興があるのか……?」


ざわつく観客。キリコは予定外の事態にうろたえる『演技』をしながら、「な、なんだお前は……誰だ!」と叫ぶ。


仮面の男は何も答えない。

ただ、左手に抱えていた「重いもの」をごとりと床に落とした。


「……う、うちの警備兵!? どういうことだ!」


キューブリックが絶叫する。それは演出用の人形などではもちろんない。本物の兵士の体であった。


会場の全員が、それが演劇ではない「本物の異常事態」であることを確信した。


キリコが尻もちをつき、慌てふためく演技を続ける中、男は黒装束のマントをバサリとはためかせた。


そこには、あるはずの右腕が存在しなかった。


「……隻腕(せきわん)……まさか、噂じゃなかったのか……!」


8年前、勇者を唯一殴り、禁錮400年の刑に処された大罪人。 「隻腕のコウ」が、白日の下にその姿をさらした瞬間であった。

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