作戦準備

作戦の決行を決めてから、アジトの空気は、これまでとは一線を画していた。「遊び」の時間は終わり、真の革命軍としての胎動が始まっている。


「キリコ、キューブリック邸の見取り図はどうだ?」


「8割方できてるよ。舞台設営の準備って名目で、うちの劇団員を潜入させてるからね。図面はもちろん、配電、通気口、空調設備までバッチリ」


キリコの有能さが光る。これなら「ネズミ」一匹通らぬ屋敷にも、容易に入り込めるだろう。


「サリー、衣装の進捗は?」


「いい感じよ。今回は試作品だけどね」


サリーが取り出したのは、特殊な繊維で編まれた8 着の黒い衣装。伸縮自在で丈夫、並の刃物では傷一つけられない逸品だ。


キリコが数に疑問を呈す。


「なんで8着?」


ゼンジロウ、リュウメイ、キリコ、アイリス、サリー、シズク、ガルダ、シド、それと私。全部で9人。確かに一着足りない。


「アンタの分は作ってないわよ」


キリコは「えぇぇ!」と大きな声をあげる。


「バカね、アンタ舞台に立つ主役でしょ。同じ服を着てマスクつけてたら正体がバレるわ。あんたのは後で立派なのを仕立ててあげるから、我慢しなさい」


不服そうにチェッと舌打ちするキリコを無視し、アイリスとシズクが「仮面」を披露した。


「仮面もできてますよ。見てください」


差し出されたのは、おどろおどろしい「不気味な口元」がデザインされた金属製のマスク。


「悪名を轟かせなきゃいけないから、怖ければ怖いほどいいと思って。シズクさんが開発した合金製だから、軽くて肌にも優しいんですよ」


楽しそうに語る彼女たちの横で、シズクが少し申し訳なさそうに私を見た。


「……色んな道具、開発したのですが、コウさんの武器だけ、作れなかったです。素手で殴る方が強くて……アイデアが浮かばなかったです」


「問題ない。私に武器はいらない」


その言葉に、シズクは少しつまらなそうに頬を膨らませた。

「絶対にコウさんが欲しがる武器、作ってみせます」


「うし、あらかた準備は整ったな。ガルダはどうしてる?」


「ガルダちゃんは、森で修行だって、大型魔獣でも狩ってるんじゃないのかなぁ?」


革命軍ナンバーワンの武力を誇る大男、ガルダ。彼は今、森で魔獣相手に修行中でずっと不在である。


「またか、しょうがない奴だなぁ」


「ガルダちゃん、前回出番がなかったから張り切ってるんだよ~。ガルダちゃんには今回『一番辛いポジション』を任せてるから。好きにさせてあげようよ」


「まぁそうだな。別に連携が必要な役割でもないし、あいつは大丈夫か、よし、じゃあリュウメイ。例のものを皆に」


ゼンジロウの合図で、リュウメイが全員に10数枚に及ぶ作戦指示書を配った。


侵入ルート、タイムスケジュール、緊急時の行動パターン……緻密すぎる内容に、サリーやアイリスが悲鳴を上げる。


「こんなにあるの?見てらんないよ、現場で随時確認するわ」


「駄目だ。これは今日一日で覚えろ。その後、指示書はすべて焼却する」


「ええ!嘘でしょ!?キリコ、こんなの無理だよねぇ」


サリーが一番共感してくれそうなキリコに助けを求めるが、キリコは「えっ?」と疑問符を浮かべた。


「無理なんですか、これ?」


「はぁ?まさかキリコ、あんたもうこれ覚えたの!?」


「え、まあ全部じゃないですけど、半分以上は……」


「……はぁーこれだから天才は」


うなだれているサリーにリュウメイがニコニコ近寄る。


「心配しなくとも、私が暗記をサポートしますよ、サリーさん」


「さっすがリュウメイ!」


「もちろん、私の教え方はスパルタですが、ふふふふ」


不敵に笑うリュウメイを見て、サリーはガックリ肩を落とした。

その傍らで、ゼンジロウは豪快に笑っている。

だが、私は見逃さなかった。

笑っているゼンジロウの足が、微かに震えているのを。


リーダーとしての重圧が、確かにゼンジロウにのしかかっているのを感じた。


ゼンジロウは仲間を、そして自分自身を鼓舞するように声をあげた。


「よし、作戦名――『シンクロニシティ・ショー』。決行は一週間後、2200(フタフタマルマル)。それまで……死ぬ気で注力しろ!」

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