留守番

「おい、アイリス」


「なんですか、コウさん」


「さっきゼンジロウは新しい作戦の目星がついたと言ったよな」


「はい、言いましたね」


「それで、各自命令を受け、外に出て行った」


「はい、ちょうど30分くらい前ですね」


「なぁアイリス」


「はい、コウさん」


「……なんで私は留守番なんだ?」


アイリスはニコニコしていだが、当たり前でしょと言わんばかりである。


「そりゃそうですよ。懸賞金をかけられているコウさん本人がおっぴらに動いちゃ、すぐにバレて作戦が台無しになりますからね」


そう言ったアイリスまで何故かアジトに残っている。


「……お前まで残ってどうするんだ」


「私はコウさんが勝手なことをしないように見張り役です」


アイリスはやはりニコニコと笑って私を見つめている。見張りという感じは全くしない。


「本当に見張りか?牢の兵士はもっとこう……」


「見張りですよ!だって、さっきからずっと私、コウさんのこと見てるじゃないですか」


「……少し見るのをやめてくれないか。落ち着かない」


「ダメです。私は見張りなんですから、ずっとコウさんを見てます」


なんだか嬉しそうである。本当に変な小娘だ。


しかし、せっかく8年ぶりに外に出たというのに、地下に閉じ込められたままなのは退屈でならない。


「なあ、小娘」


「小娘じゃありません。アイリスです。さっきまで呼んでくれてたじゃないですか」


「……アイリス。外に少し、出てみたいんだが」


「ダメです。絶対に外に出さないようにと言われています」


やはりダメか。無理やり出るのも趣味じゃないしな……。


「……お前と一緒でも、ダメなのか?」


「えっ?」


「アイリス、お前と一緒に外に出たいんだ。お前となら、少し街を歩いてみたいと思ってな」


まぁ無理だとは思ったが駄目もとだ。


「私と……っ、コウさんと私で、街を……それって、もはや……っ!」


アイリスは何かを言いかけて顔を真っ赤にし、ブンブンと激しく頭を振った。


「……し、仕方ないですね! 確かに、ずっとこんなところにいたら気が滅入ってしまうかもしれません。ちょっとだけ、私と一緒に、ちょっとだけですよ!?」


結局、私たちはアジトを出て街を散歩することにした。

歩く街並みは、何もかもが新鮮だった。並べられた林檎、馬車の車輪の音……光のある世界がどんなに素晴らしいかを肌で感じた。

だが、歩くにつれて違和感に気づく。


「……街に活気がないな」


「……はい。今、この国は王族や貴族、勇者派の司祭たちが権力を握って思い通りに動かしています。一部の者にだけ富が集まり、市民は苦しい生活を強いられているんです。顔を上げて歩ける人なんて、ほとんどいません」


気分転換のつもりが、余計に気が滅入ってくる。

目立ってもいけない。そろそろ帰ろうとアイリスに言いかけた、その時だった。


「この無礼者めが!!」


男の怒号と馬の嘶きが聞こえた。

貴族の馬車の前に、小さな子供が飛び出してしまったらしい。


「すみません! すみません! うちの子が馬を驚かせてしまって……っ!」


母親が必死に謝るが、馬車から降りてきた貴族は従者から鞭を受け取る。

貴族は容赦なく親子に向かい鞭を振り上げた。


「アイリス!」


私は声をかけた。だが、思い出す。


貴族の前に出れば正体がバレる。そうなればアイリスまでもがお尋ね者になってしまうかもしれない。

助けに行けない?――奥歯を噛み締めた瞬間、アイリスが素早く動いた。

彼女は近くの林檎売りへ駆け寄った。


「おじさん、林檎ください! 紙袋二つ!」


「はいよ!」


「紙袋、先にください! お釣りはいいです!」


アイリスは銅貨二枚をパラリと渡し、受け取った大きな紙袋を私の顔にズボッとかぶせた。


「これでバレません! 行きましょう、コウさん!」


なるほど、これなら確かに顔は隠せる。

私は「紙袋の騎士」として、泣き叫ぶ親子の元へ駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る