英雄の狼煙

 「懸賞金が意外と低いのは、これが貴族たちの間だけで回されている『内密のチラシ』だからかもしれませんね。内内でやってるんで予算が余り無いんでしょう」


 キリコの言葉に、ゼンジロウが眉をひそめる。


 「どういうことだ?」


 「おそらく、国はこの件を内々に処理しようとしているのでしょう。」


 キリコに代わり、参謀のリュウメイが眼鏡の奥の鋭い瞳を光らせて言葉を引き継いだ。


 「勇者に不敬を働いた大罪人に逃げられたなんてことが、勇者本人や他国に知れたら面目は丸潰れですからね。下手したら、激怒した勇者がこの国に乗り込んでくることを役人どもは恐れているのですよ」


 「なるほどな。メンツを守るために、コソコソと裏でコウを消そうってわけか」


 ゼンジロウが言葉に怒りを滲ませるのと裏腹に、リュウメイは不敵な笑みを浮かべた。


 「だからこそ、これから皆さんには『もっと悪いこと』をしてもらいますよ」


 「えっ!?」


 キリコが声を上げた。


 「コウさんを匿ってるんですから、慎重に行動しなきゃいけないのになんでまた悪い事!?」


 「貴族の間だけでこのチラシが出回っている状態では意味がないのですよ、キリコ君。さっきも言った通り、これは『宣伝』なんです。広く民衆に私たちの存在を知ってもらい、賛同者を募らなければならない。そのためにも――『隻腕のコウ』には、英雄として派手に動いてもらわねばならないのです」


 本人を置き去りにして進む議論。私はリュウメイに一つ、問いを投げた。


 「……私が幽閉されていた8年間で、あの男は何をした?」


 「バルバトス……ですね。表向きには魔王軍の四天王のうち二人を倒し、順調に魔王の潜む深部へ向かっている、とのことです。あくまで『表向き』は、ですが」


 リュウメイの声は、静かだが氷のように冷たい。


 「裏では、遊び半分で殺した無実の人々は百を下りません。気まぐれで潰した村も十数箇所。さらわれた女子供や、奴のせいで不幸になった人間の数は……魔王が人間に与えた被害以上かもしれませんね」


 それを聞いて、私は、低く、重い笑い声を漏らしてしまっていた。


 「……安心した。あいつがクズ野郎のままでいてくれて。どうせ拾った命だ。もう一度……奴をぶん殴る」


 私がそう言うと、若干の戸惑いを見せていた面々も覚悟が決まったようだった。


 「決まりだな!」


 ゼンジロウは上機嫌でテーブルを叩いた。


 「すべては想定の範囲内だ。リュウメイ、次の作戦をすぐに計画するぞ!」

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