合流

 私が幽閉されていた牢獄は、塔の最上階。地上に降りるまでには何人もの兵士が詰めており、脱獄はかなり厳しいはずだ。


 「さて、と」


 ゼンジロウは腰からロープを取り出した。


 「片腕じゃあ厳しいか?」


 そう言いながら、慣れた手つきで塔の頂にロープを引っ掛けた。


 「問題ない。片腕でも体を支えることくらいはできる」


 「そうか、そいつは助かる。じゃあ、先に行かせてもらうぜ」


 ゼンジロウがするするとロープを伝って降りていき、コウもそれに続いた。


 地上に降り立つと、そこには鎧を着た一人の兵士が待ち構えていた。


 それはそうだろう、この警戒が厳重なロイタース城で兵士に見つからず、脱出なんてできるはずがない。


 私は身構えたが、兵士の男は兜を脱ぎニヤリと笑った。


 「隊長殿、無事で何より」


 「茶化すな、リュウメイ」


 なるほど。この鎧の男も仲間か。


 「でも、本当うまくいきましたね」


 「ああ、シズクが調合した薬品は一級品だ。爆弾も成功したし、食事に入れた眠り薬のせいで、見張りのほとんどが眠っちまってる。おかげで、案外簡単に中に入れた」


 「それにしてもゼンさん。あの新人ちゃん、すごいですねー。一人で侵入ルートの選定から、食事係への新人募集に応募して潜入。警備が薄くなる日の特定……一人でスケジュール組み上げてしまいましたね」


 「ああ。おそらく全てあいつの計算通りだろ。おどおどしてるように見えて案外曲者だ。時間が経てば俺達に迷いが生じる。作戦を実行せざる得ないような状況に見事に持ち込まれた」


 「何の話だ?」


 「あんたの大ファンの話さ。……おっと、お喋りしてる時間はねえんだったな。行くぞ!」


 ゼンジロウを先頭に、私達は城の出口を目指して走り出した。すると、前方の広場で誰かが城の兵士たちと交戦中であった。


 「……すごい剣捌きだ」


 思わず見入ってしまった。

 兵士と戦っているのは何と小柄な女性であった。それもだいぶ若い。

 小柄な影が、城の鍛え抜かれた兵士たちの剣技を軽々とかわし、逆に的確な一撃を与えていく。すでに数人の兵士が地に伏していた。


 しかし、多勢に無勢。その動きには明らかに疲労の色が混じり始めている。


 「……ッ!」


 私は、いつの間にかその少女の方へ駆け出していた。


 「おい、どこへ行くんだコウ!」


 ゼンジロウの声を背に、私は叫ぶ。


 「加勢する! お前たちの仲間なんだろう!」


 少女は果敢に剣を振るっていたが、体力は限界に達していた。


 「この小娘、死ねぇ!」


 兵士の鋭い一撃。少女は体勢を崩し、もはや避けることはできない。

 ——咄嗟に、体が動いていた。


 失った右腕ではない。残された左腕を、盾にするように突き出す。


 「やめて! 左手まで失ったら……!」


 少女の悲鳴が聞こえた。

 自分自身、最悪、この左腕も切り落とされるかもしれないと覚悟した。


 だが——。


 「ガキンッ!」


 凄まじい金属音が響く。

 切り落とされたのはコウの腕ではなく、兵士の鋼鉄の剣だった。剣先がポキリと折れ、虚空を舞う。


 「な、な……っ!?」


 兵士が動揺し、少女が目を丸くして固まる。

 しかし、私の動きは止まらない。

 動揺する兵士のプレートメール、そのみぞおちをめがけて、渾身の左拳を打ち込んだ。


 「バグォォンッ」


 鈍い破壊音。分厚いプレートがひしゃげ、貫通せんばかりの衝撃が兵士を突き抜ける。

 兵士は泡を吹いて吹き飛び、背後の壁に激突して気絶した。


 「……うそ。ただのパンチであの威力? それに、剣を直接受けて折るなんて……」


 コウメイが絶句しているが、私自身も驚いている。なんだ?この力は


 「ゼンさん。あの人、魔法使い? 身体強化の魔法でも使ってる? いや、そんな情報はなかったはず。確か幽閉される前の仕事は……」


 「とにかく、今は逃げましょう!」


 少女の声が響く。

 ゼンジロウは黙って頷く。


 「出口まで、後少しだ」

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