1-2

 王都の奥の広場は、二つの顔を同時に晒していた。


 左側には屯田の勇者像が立っている。

 鍬を掲げた石の腕の下で、白い衣を着た女僧侶が演説をしている。


 右側には魔族の奴隷売買の会場があった。

 競売口上と木槌の音、値段、拍手、笑い。

 人々が熱狂している。


 そのあいだには、誰も立たない筋が一本ある。

 ジュスタンは、その筋をまっすぐ歩いた。

 左脚の奥が、石畳のたびに鈍く響く。


 演説の声が、通路の上を滑ってくる。


「……みなさん、これが正気だと思いますか」


 声は大きくない。

 なのに、よく通る。


 演説をしている女僧侶の隣には、背丈に見合わない杖を脇に抱えた少女がチラシを配っている。


 聞き手は多くない。

 大人しい顔の女たちが、少し離れて立っている。

 近づきはしない。離れもしない。

 ここに居ることだけが目的みたいに。


 その背後で、盾がわずかに角度を変えた。

 槍の穂先が、半歩だけ前へ出る。


 盾の列の先頭に、女騎士がいた。

 兜の影で表情は読めない。

 視線だけが鎖を追い、すぐに逸れた。


「……女性被搾取糾弾婦人会のレティナか」


 隣の騎士が、小さく息を吐く。


「黄金教会所属の。面倒なのが来ているな」


 レティナは演壇に立ったまま、右の競売も左の聴衆も目に入れていない。

 広場そのものを裁くみたいに言った。


「魔族だから、何をしてもいいんですか」

「女の魔族なら、首輪を祝福に変えてもいいんですか」


 右の木槌が、返事みたいに鳴った。


「次だ! 目玉だぞ!」


 金属音。

 鎖が石を擦る音。


 太い。

 成人の男の腕ほどある。


 その重みで、首が落ちていた。


 淡い銀髪の少女。

 首輪が白い肌に食い込んでいる。


 目だけが、怯えていない。

 人の顔を見ず、距離を測る目。


「サキュバスだ」

「娼館行きだな」

「かわいい……」


 笑いがねばつく。

 舌が脂を舐めるみたいに動く。


 善良ぶった目もある。

 でも、それは可哀想を味わうための目だった。

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