左 翼 転 生

セクシー&ブーメラン

敗残勇者の解放とは、奪われた世界と契りを、彼自身に取り戻す。

1-1

 ダ・シャルダン王国。


 魔族と戦う勇者が誕生する聖地。

 そう呼ばれている。


 聖地という言葉は便利だ。

 血の匂いも、泣き声も、全部そこへ押し込められる。


 勇者は祈りで生まれる。

 建前は。


 実態は、選ばれて、作られて、使われて。


 ……捨てられる。


 敗残勇者のジュスタンは、その捨てられた側だった。


 王都の第七門の前は、音で満ちていた。

 太鼓が鳴る。旗が揺れる。鎧が擦れる。馬の鼻息が白く立つ。


「がんばれー!」

「新しい勇者様だ!」

「今度こそ魔族を根絶やしにしてくれ!」


 歓声は門の外へ流れていく。


 脇に寄せられた一台の馬車。

 その幌の中に、松葉杖を持った男がいた。


 幌の中は血の匂いと、使われない装備。

 戻らない仲間の分だけ、空いた場所がある。


 御者が手綱を引き、馬車が止まる。


「次。」

「……何だ、敗残兵か」


 門番の声は淡々としていた。

 人ではなく、荷を数える調子だった。


 幌が少しだけ開く。

 光が刺さる。


 男は松葉杖を握って降りた。

 左脚は、思いの通りには動かない。


 石畳に杖先が当たる音だけが、小さい。

 門番の視線が左脚に落ちた。


「……その脚じゃもうダメだな」


「……」


 門番は鼻で息を吐いた。


「名前は?」


「ジュスタン」


「……ああ、お前が大力の…」

「そうか…通れ」

「中で倒れるなよ。仕事が増える」


 面倒と同情が入り混じったその言葉は、新しい勇者の遠征を祝う音よりも耳に残った。


 門が開き、ジュスタンは王都へ帰ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る