第18章 ヴェルナーの真実
ヴェルナーについての調査は、さらに深まっていった。
◆
ある日、予期せぬ情報が飛び込んできた。
「師匠、大変です」
ナットが、息を切らせて駆け込んできた。
「どうした」
「ヴェルナーについて、新しい情報が——」
ナットが差し出したのは、一通の手紙だった。
差出人は不明。だが、内容は衝撃的だった。
「神崎殿へ
あなたがヴェルナーについて調べていると聞きました。
私は50年前、宮廷で彼と共に働いていた者です。
今は引退し、東部の村で静かに暮らしています。
真実をお話しする準備があります。
もし興味があれば、お越しください。
元宮廷技術官 エルンスト・ホフマン」
「元宮廷技術官……」
鋼太郎は、手紙を握りしめた。
「会いに行く」
「危険ではありませんか。罠かもしれません」
「かもしれない。だが、真実を知る機会を逃すわけにはいかない」
◆
数日後、鋼太郎は東部の小村を訪れた。
エルンスト・ホフマンは、80歳を超えた老人だった。
白髪、皺だらけの顔、だが目だけは鋭い光を放っている。
「神崎殿、よく来てくださった」
「お会いできて光栄です。さっそくですが——」
「分かっている。ヴェルナーのことだな」
エルンストは、杖をつきながら椅子に座った。
「私は50年間、この秘密を守ってきた。だが、もう長くない。死ぬ前に、誰かに真実を伝えておきたかった」
「真実とは」
「製鉄炉の爆発は、事故ではなかった」
エルンストの声が、低くなった。
「あれは、意図的に引き起こされたものだ。ヴェルナーを排除するために」
「誰が」
「当時の宮廷にいた、ある貴族だ。名前は——もう故人だから言っても構わないだろう——カール・フォン・ライヒェンバッハ伯爵。彼は、旧来の製鉄業を支配していた一族の当主だった」
エルンストは、苦い顔をした。
「ヴェルナーの新しい製鉄技術は、ライヒェンバッハ家の利益を脅かしていた。彼らは、何としてもヴェルナーを排除したかった」
「それで、炉を破壊したのか」
「そうだ。炉の一部を密かに改変し、暴走するように仕組んだ。そして、爆発が起きた後、全ての責任をヴェルナーに押し付けた」
「……」
「私は、それを知っていた。だが、何も言えなかった。ライヒェンバッハ家は、強大な権力を持っていた。逆らえば、私も消されていただろう」
エルンストの目に、涙が浮かんだ。
「私は、ヴェルナーを見捨てた。彼が無実だと知りながら、何もしなかった。50年間、その罪悪感を抱えて生きてきた」
「……」
「神崎殿。あなたは、ヴェルナーと同じ知識を持つ者だと聞いている。どうか、彼の名誉を回復してくれ。そして、もし可能なら——彼を救ってくれ」
◆
エルンストとの会談の後、鋼太郎は王都に戻った。
宰相府に報告に行くと、宰相アルベルトは深刻な顔で聞いていた。
「……なるほど。50年前の事件は、冤罪だったと」
「はい。証言者もいます」
「厄介な話だな。ライヒェンバッハ家は、今でも有力な貴族だ。過去の不正を暴くのは、政治的に難しい」
「……」
「だが、神崎殿。あなたの言いたいことは分かる。ヴェルナーは、人間に裏切られたから、魔王軍に与したのだ。それを何とかしたいと」
「はい」
鋼太郎は、宰相を真っ直ぐに見た。
「俺は、ヴェルナーと戦いたくない。彼は、技術者だ。俺と同じように、良いものを作りたいと思っていたはずだ。その想いを、取り戻させたい」
「甘いな」
「甘くても構いません。技術者として、同じ信念を持つ者を見捨てるわけにはいかない」
宰相は、しばらく沈黙していた。
そして、溜息をついた。
「……分かった。私も、できる限り協力しよう。ライヒェンバッハ家の過去を調査し、必要なら処分する」
「ありがとうございます」
「ただし、期待はするな。ヴェルナーが人間を許すかどうかは、別の問題だ。50年間の憎しみは、簡単には消えない」
「分かっています」
鋼太郎は、深く頭を下げた。
◆
工房に戻ると、三人の弟子が待っていた。
「師匠、どうでしたか」
リーゼが尋ねた。
「ヴェルナーの過去が分かった」
鋼太郎は、調査結果を話した。
冤罪、追放、復讐——ヴェルナーがたどった道のりを。
「……ひどい話ですね」
ボルトが、拳を握りしめた。
「無実なのに、追放されるなんて」
「ええ。でも、だからといって、人を傷つけていいわけではありませんよね」
リーゼが言った。
「難しい問題です」
ナットが、考え込んだ。
「ヴェルナー様の気持ちは分かります。裏切られたら、復讐したくなるかもしれません。でも——」
「だからこそ、俺たちがやることがある」
鋼太郎が言った。
「ヴェルナーは、人間に絶望した。だが、俺たちは違う。俺たちは、人のために技術を使う。その姿を見せることで、ヴェルナーの心を変えられるかもしれない」
「どうやって」
「分からない。だが、やるしかない」
鋼太郎は、三人を見回した。
「俺たちの武器は、戦場で兵士を守っている。俺たちの技術は、人を幸せにしている。それを、ヴェルナーに見せたい。『技術は、こう使うべきだ』と」
「……はい」
「俺たちの仕事を、続けよう。最高の品質で、最高の製品を作り続けよう。それが、ヴェルナーへの最大の反論になる」
三人の弟子が、力強く頷いた。
「分かりました、師匠」
「私たちも、頑張ります」
「ヴェルナー様に、見せつけてやりましょう」
鋼太郎は、窓の外を見た。
北の空に、雲が広がっている。
——ヴェルナー。
いつか、直接会う日が来るだろう。
その時、何を言うべきか。
まだ、分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
自分は、技術者としての信念を曲げない。
それだけは、絶対に。
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