幼なじみを許せない
りな
幼なじみを許せない
■幼なじみを許せない
「恭介入るよー」
私は見慣れたドアを開ける。
幼なじみの特権を使って、恭介の部屋に遊びに来た。
今日は遊びに来たというよりも、聞きたいことがあるんだけど。
「おうよ、おう」
恭介は一瞬、私と目を合わせて、再び手元のスマホに目を落とす。
恭介はベッドの上に座って、壁に寄りかかっている。
眼鏡にラフな部屋着姿の恭介を見たら、私は胸のつかえがちょっとだけ消えた気がする。
「漫画借りるー」
私は読みかけだった漫画の三巻を本棚から取り出して、恭介の近くに座る。
恭介はベッドの上に座り、私は床に座りベッドにもたれかかる。
胸がドキドキしている。
恭介にいつ話しかけようか、漫画を読むふりをしながら考える。
恭介は静かだ。
スマホでゲームかゲーム実況動画か、そのどっちかを見てると思う。
「ねぇ」
「んー?」
私はいつもより大きな声で話しかけてしまった。
それに対して、恭介はいつも通りの反応だ。
けれど、私の胸の高鳴りがさらに大きくなってしまったことを感じる。
今から聞こうと思っているのは、ただの学校行事での話で、恭介に変に思われることはない。
私は自分に言い聞かせるように考える。
一呼吸おいてからもう一度。
「ねぇ、恭介。あのさ」
「どうしたー」
私は刺すような痛みを胸に感じる。
ずっと痛いままにはできないから、私は聞く。
恭介から顔が見えない位置でよかった。
頬が熱くなってしまっているのを感じる。
「クラスマッチのとき、あのバスケの試合の後、
女の子から話しかけられてなかった?」
普段と同じ、何気ない声で聞けていますように。
私は落ち着いているふりをする。
「あーね……安田、安田が!」
恭介が興奮したように大きい声を出して、
私は驚いて肩を揺らしてしまった。
「安田のやつに彼女できたんだよ。
んで、美保が見たのは安田の彼女だよ」
「安田くんにね。かわいい子だね」
「なー」
再び恭介は興味なさそうな声に戻る。
私はようやく息が自然にできる気がした。
かわいい女の子と恭介が話していたのを、ずっと気になっていた。
安田くんの彼女でよかった。
さてと、漫画の続きに集中しようと。
「美保」
名前を呼ばれて、私は頭だけを振り返るようにして恭介のほうを見る。
ベッドの上から見下ろすような恭介の目と視線が合う。
「ヤキモチでもやいたのか?」
自信ありげな恭介のニヤけた口元に、私は思わずカチンとなる。
ずっと私に興味なさそうな態度をしていたくせに。
近くにあったクッションを恭介に投げる。
「なんでそうなるの?」
「そう?……そうだよな」
クッションを受けとめながら恭介は答える。
恭介はクッションを優しい目で見つめている。
二、三度角張った手で柔らかく撫でた。
……なんでクッションに優しくするの?
余裕そうな態度が、なぜか気に入らなくて、
もう一個クッションを恭介に投げる。
「調子にのんなし。漫画読むから静かにして」
「俺の漫画だからな」
「ありがとっ」
お礼だけは言って、私は漫画に向き合いながら考える。
幼なじみなんて、大嫌いだから。
「……」
五分くらいたったかな。
私の頭も冷えてきた。
閃いた。
私だって、少しくらい驚かせたい。
恭介から顔が見えない位置でよかった。
きっと、また私の心臓はうるさくなる。
ページをめくる音と一緒に私は口を開く。
「恭介のこと、信じてる」
「あっ……うん……へっ?」
私が投げた言葉に、驚いた恭介の声が部屋に響く。
背中に感じるベッドが軋む揺れ。
私は何もわかっていない幼なじみが許せない。
だから、恭介だって、『幼なじみ』を許すなよ。
幼なじみを許せない りな @rinasan
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