安代洋太③ プロローグ
桐生みなみ。
最初から音楽好きなのは分かっていた。
もしかしたらHUMAN HUNDREDのことも知っているのかも、と思ったが、
そんな素振りもなく、失礼な態度で接してくるので、関わりやすい年下女子という印象である。
アップ時間が重なる日は駅まで必ず一緒に帰るようになり、コンビニに寄り道をしてアイスを買い、談笑する日もあった。
バンドの解散をしてから心が閉鎖気味だったので、かけがえのない時間だった。
ある日の帰り道、桐生にバンドの活動のことを打ち明けてみた。
「そうなんですね」と淡白な回答が返ってくると思って発言したのだが、予想外の回答だった。
彼女は活動をしていたことを知ってくれていて、
ライブにも来たことがあるという。
しかも、あまり売れていなかったZeppでのライブを彼女は高評価もしてくれた。
その日からはバンド活動の裏側の話も話題のひとつとなるようになった。
時折、HUMAN HUNDREDの楽曲の魅力について桐生は語ってくれた。
いつしか安心する居場所へと変わっていった。
家に帰ってSNSを見ていると、明君の動画が流れてくる。
実は彼とシフトが被った日にはバンド活動の相談もされていた。
いつも大したことは答えれないよ、と前置きをするのだが、決まって彼は眩しい表情で話を聞いてくれた。
そんな彼が1000人キャパの会場でのライブをソールドアウトさせた。
メジャーデビューと同時にアニメのタイアップも発表するという。
桐生には好意を抱いていて、先日告白もしたようだ。
どす黒い何かが湧き上がってくるのを感じた。
あの頃に戻れれば。
羨ましい。
やり直したい。
ふとHUMAN HUNDREDの曲の魅力について語っていた、桐生の表情を思い出した。
まだ喜んでくれる人が近くにいるかもしれない。
どす黒い思いの片隅で、そう思えた。
再始動はもう絶対にできないけど、
身近な1人のために独りで頑張ることくらいはできるんじゃないだろうか。
丸めて捨てた夢を、
終わったはずの物語の続きを、
密かに少しだけ綴ってみる。
充電の切れたパソコンに電源を繋ぎ、
埃被ったアコースティックギターを取り出した。
気づいた時には朝が来ていた。
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