プロローグ③

ヨモギの兄は小説家だ。大好きだったおばあちゃんが死んでしまった悲しさをどこかに発散しなくてはいけなくて小説を書き始めた。それからことあるごとに小説を書くのが癖になって、大学では文学の勉強をした。


大学生活の最初の三年間はなんとなくで過ごして、それなりに楽しい日々だった。何がキッカケになったのかは分からないけど最後の一年間で人が変わったように小説の執筆に没頭し、純文学の新人賞を受賞した。


それから地元から離れて東京で小説を書き芥川賞を受賞する。


地震が発生した当時、兄は東京にいた。東京もかなり揺れていたのを覚えている。  両親と連絡がついたときには、嫌な予感が頭の片隅にあった。


「一緒にお酒を飲もうね」



そんな約束はもう叶わない。


時間の流れが兄の心を救うことはなく、東京から東北の地元に帰り、被災した両親と一緒に暮らした。建物が崩壊し、地形は崩れ、地元の景色は変わってしまった。復興の段階になって、世界からがんばろうというメッセージが届く。


地元のボランティアに参加することで、毎日を忙しく過ごすと少しだけ気が紛れた。ボランティアに参加している人のなかには、兄と同じように大切な人を亡くした人がいた。自分にできることをするんだとその人は言っていた。自分にできることという言葉が兄の心に小さく残る。


ヨモギは小説が好きで兄は小説家だった。


「小説が好きだからなー。わたしは生まれ変わっても小説を書くと思う」


ヨモギの言葉を思い出す。


ある日、兄は東京に戻った。自分が前を向くために、書かないといけない小説があった。決してヨモギのためではない。自分のために、妹への未練、愛、願いを綴った私小説を書く。


兄が小説を書き始めたキッカケは祖母が死んだ悲しさをどこかに発散しなければ、自分がどうにかなってしまいそうだったからだ。兄は、大切な人の死を乗り越えるために小説を書いた。


未練はある。一緒にお酒を飲みたかった。


19年間の思い出と、ヨモギがいなくなった後の世界について。


願わくば、ヨモギが生まれ変わっても大好きな小説が書けますように。


ヨモギのお墓は文学だった。


若月 ヨモギ、享年19歳。


ウラフリータに転生する。

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